アメリカ大統領の就任式
アメリカ大統領の就任式は厳粛、かつ、華やかな最重要行事です。式典には、国内外から注目が集まります。ここでは、権威あるホームページの記事を2件紹介したあと、興味本位に就任式や就任宣誓などを見ていきます。
［このページの構成］
【第1章】「就任式に関する合同議会委員会」（1901年の就任式の際に設立されて以降、次期正副大統領の就任式の企画と実施を担当している。連邦議会上下両院議員の代表からなる）のホームページの記事
【第2章】連邦議会図書館ホームページの「大統領就任式リサーチガイド」が紹介する豆知識
【第3章】特異な就任式と就任宣誓を興味本位に考察
【第4章】大統領任期の開始時期を興味本位に考察
◆就任宣誓を規定する合衆国憲法第2条第1節(8)の全文は次のとおり。
大統領はその職務を遂行する前に、次の宣誓または確約をしなければならない。 「私は合衆国大統領の職務を忠実に遂行し、全力を尽くして合衆国憲法を維持し、保護し、擁護することを厳粛に誓う（あるいは確約する）」。
【第1章】「就任式に関する合同議会委員会」のホームページの記事
【就任式パレードについて】
伝統に則り、連邦議会上下両院議員の代表で構成される「就任式に関する合同議会委員会」（JOINT CONGRESSIONAL COMMITTEE ON INAUGURAL CEREMONIES）はホワイトハウスを訪れ、次期大統領、次期副大統領、そしてその配偶者を国会議事堂までエスコートし就任式に出席する。短い会合の後、次期大統領と退任大統領は共に国会議事堂へ向かい、宣誓式に出席する。この伝統は、1837年の大統領就任式当日、退任する第7代ジャクソン大統領がバンビューレン次期大統領と一緒に大型フリゲート艦USSコンスティチューション号の木製船体の木材で作られた馬車に同乗して以来のことで、ほぼ例外なく続いている。副大統領と次期副大統領、その家族、閣僚、そして合同議会委員会メンバーも同行している。
1789年に挙行された史上初となるワシントン大統領の就任式以来、就任式におけるパレードは祝典に花を添える役割を果たしてきた。実際、現在では就任式後に行われるパレードは当初、次期大統領を軍隊、楽団、閣僚、行政代表、そして友人たちが就任式会場まで護衛した行列として始まった。1873年に手順が変更され、第18代グラント大統領は宣誓式の後、ホワイトハウス前に設置された観覧席から軍隊を閲兵した。1881年には、1個師団が次期大統領ガーフィールドを国会議事堂まで護衛し、就任式後に本格的なパレードが行われた。
ほとんどの大統領は馬車（後に自動車）で就任式に移動したが、第3代ジェファソン大統領とジャクソン大統領は就任式に徒歩で向かった。1825年には、退任する第5代モンロー大統領は、次期大統領ジョン・クインジー・アダムズの馬車に続いて、自らの馬車で連邦議事堂への行列に参加した。 1841年、第9代ハリソン大統領は就任式のため、親密な盟友たちに囲まれながら「白い軍馬」に乗り議事堂へと向かった。1845年、退任する第10代タイラー大統領は次期大統領ポークと馬車に同乗して議事堂へ向かったが、これは、1837年のバンビューレン、ジャクソン両大統領の先例を確固たるものとした。
1849年の第12代テーラー大統領の就任式までに、パレードの手順は確立されていたが、時とともに少しずつ変化していくことになる。軍人と民間人の護衛が次期大統領の宿舎まで行進し、そこで退任する大統領が合流する。退任する大統領は次期大統領の右側に着席し、その後、随行員全員が就任式のために議事堂へと向かった。
1857年の第15代ブキャナン大統領の就任式では、上院の就任式準備委員会のメンバーが警護を務め、大統領と次期大統領と共に馬車に乗り込み、これが長く続く伝統の始まりとなった。
第16代リンカン大統領は1865年の第2回就任式では議事堂への行列に参加しなかった。彼は既にその日の朝早く議事堂を訪れ、土壇場で成立する法案に署名していたためであった。パレードはリンカン大統領抜きで進められ、アフリカ系アメリカ人が初めて行進するという歴史的な出来事となった。
1869年、第17代ジョンソン大統領は、次期大統領と共に議事堂への行列に参加せず、就任式にも出席しなかった3人目の大統領となった。彼はホワイトハウスに留まり、任期満了の正午まで土壇場で成立する法案に署名した。
1877年の第19代ヘイズ大統領の就任式を機に、次期大統領がまずホワイトハウスへ行き、退任する大統領と面会してから議事堂へ向かうという伝統が始まった。副大統領と次期副大統領は別の馬車で続き、その後に上院議事運営委員会のメンバーが続いた。その後の就任式もこの慣例に倣うこととなった。
1917年、エディス・ウィルソン大統領夫人は、夫に同行して馬車で議事堂へ向かった初のファーストレディとなった。1921年、第29代ハーディング大統領が就任式に自動車で向かった初の大統領となった。1965年の第36代ジョンソン大統領の議事堂へのパレードは、防弾リムジンの導入を含む厳重な警備体制が敷かれた。
今日、大統領就任式のための議事堂への大統領パレードは、過去の就任式の変遷に基づく、確立された儀礼に従っている。
【就任の宣誓について】
［アメリカの未来への信頼］
大統領選挙と就任式に伴う手続きは、2世紀を経てなじみ深いものとなったが、1787年の憲法制定会議に続く揺籃期には、全く新しい、前例のないものであった。憲法は、大統領は各州の上院議員と下院議員の数と同数の選挙人団によって選出されることを規定している。また、議会は、選挙の実施時期、選挙人団の会合時期、そして新大統領の就任宣誓の時期を決定する権限を有している。憲法はまた、大統領はアメリカ合衆国生まれの市民であり、少なくとも14年間アメリカ合衆国に居住し、35歳以上でなければならないとも規定している。さらに、新大統領が誓う、または、確約するべき就任宣誓についても規定している。しかし、憲法には就任式についてそれ以上の言及はない。
ジョージ・ワシントンの最初の就任式は、1789年4月30日、ニューヨーク市のフェデラル・ホールで行われた。我が国の初代大統領は、ウォール街を見下ろすバルコニーで就任の宣誓を行った。式典が終わると、階下の群衆は三度大きな歓声を上げ、ワシントン大統領は上院議場に戻り、短い就任演説を行った。大統領は「宇宙を支配する全能の神」に、アメリカ国民が「自ら樹立した政府」の下で「自由と幸福」を得られるよう助けてくださるよう呼びかけた。
4年後の1793年3月4日、ワシントン大統領の二度目の就任式はフィラデルフィアで行われた。ポトマック川沿いに恒久的な首都が建設される間、政府は一時的にフィラデルフィアに所在した。大統領は、独立記念館のすぐ西にあるジョージ王朝様式のコングレス・ホール2階にある小さな上院議場で宣誓を行った。華やかな最初の就任式とは対照的に、この式典は簡素なものだった。高官で埋め尽くされた部屋の中で、ワシントンは記録上最も短い就任演説（わずか135語）を行い、その後、最高裁判所判事ウィリアム・クッシングが執り行う就任宣誓を繰り返した。
［連邦議会議事堂における最初の就任式］
1801年3月までに、合衆国政府の所在地はワシントンD.C.に移っていた。道路はぬかるみ、ほとんど通行不能で、低木が生い茂っていた。連邦政府の建物を建設する労働者のための粗雑な施設が景観を損ねていた。当時、議事堂は片翼だけが完成しており、そこには上院、下院、議会図書館、そして最高裁判所が一つの屋根の下に同居していた。 1801年3月4日、大統領当選者のジェファソンは、ファンファーレすらなく、近隣の下宿からわずかな随行を伴い、新たに首都となったワシントンで就任する初めての大統領となるため議事堂に徒歩で向かった。上院議場（現在の旧最高裁判所室）に入ると、ジェファソンは直ちにジョン・マーシャル最高裁判所長官の執り行う就任宣誓を行い、その後、上院議場に集まった聴衆に向かって就任演説を行った。就任演説の後、ジェファソンは下宿で食事をし、一日を終えた。爾後すべての大統領と副大統領の就任式は、数例を除き、首都ワシントンで行われることとなる。
1829年3月4日に行われた第7代ジャクソン大統領の就任式は、議事堂東側で行われた35回の就任式の最初のものだった。1833年のジャクソン大統領の第2回就任式は、彼の体調不良と悪天候のため下院議事堂で行われたが、1837年の第8代バンビューレン大統領から1905年の第26代ローズベルト大統領まで、歴代大統領は議事堂東側で就任宣誓を行った。1909年には、猛烈な吹雪のため、第27代タフト大統領の就任式は上院議場内で行われた。
［合同議会委員会の設置］
世紀変わりには、注目すべき画期的な出来事があった。連邦議会上下両院議員の代表で構成される「就任式に関する合同議会委員会」（JOINT CONGRESSIONAL COMMITTEE ON INAUGURAL CEREMONIES）の設置である。20世紀まで、就任式は合衆国上院が独占的に担当していた。ジェファソン大統領の就任から100年後の1901年、合同議会委員会が連邦議事堂での就任式の企画・実施のために設置された。オハイオ州選出の共和党上院議員、マーカス・A・ハンナが初代議長に就任し、第25代マッキンリー大統領の第2回就任式を担当した【ハンナはマッキンリーの友人にして政治的盟友。1896年と1900年の大統領選挙でハンナはその資産と経営の才覚によりマッキンリーの当選に貢献した】。
1913年3月4日、第28代ウィルソン大統領は、連邦議事堂東側での就任式を踏襲した。式典は、1945年1月20日に第32代ローズベルト大統領が前例のない第4回就任式を行うまで、引き続きそこで行われた。4年間の戦争による疲弊などに鑑み、ローズベルト大統領はホワイトハウス南側前廊において簡素で控えめな式典を行うことを選択した。
1949年、第33代トルーマン大統領の就任式は連邦議事堂東側で再び行われ、1977年の第39代カーター大統領の就任式まで、そこで執り行われた。
［連邦議事堂西側での開催に転換］
1981年の第40代レーガン大統領の就任式は、議事堂西側で行われた最初の式典となった。建設費用を最小限に抑え、より多くの観客の視認性を向上させるため、議会は、式典を伝統的な東側会場から変更された。1985年1月21日に行われたレーガン大統領の2回目の就任式は、厳しい寒さのため議事堂ロタンダ内での開催を余儀なくされたが、1989年の第41代ブッシュ大統領、1993年と1997年の第42代クリントン大統領、2001年と2005年の第43代ブッシュ大統領、2009年と2013年の第44代オバマ大統領、そして2017年の第45代トランプ大統領の就任式は、西側会場での開催が伝統として引き継がれた。
［愁いを帯びた就任式］
すべての大統領就任式が、荘厳で公的な式典、あるいは、祝賀行事であったわけではない。8人の副大統領が大統領の死去に伴い宣誓を行い、また別の大統領は大統領の辞任に伴い宣誓を行った。ジョン・タイラーは、バージニア州ウィリアムズバーグの自宅で、第9代ハリソン大統領の訃報を受け取った。タイラーはすぐに馬車でワシントンへ向かった。翌日の1841年4月6日、ペンシルベニア通りのインディアン・クイーン・ホテルで、タイラーは大統領の就任宣誓を行った。コロンビア特別区巡回裁判所のウィリアム・クランチ首席判事がタイラーの宣誓を執り行った。クランチ首席判事は、9年後、第12代テーラー大統領の死後、ミラード・フィルモアにも宣誓を執り行った。1850年7月10日、フィルモア副大統領は下院議場における公式の式典で宣誓を行った。
第16代リンカン大統領は1865年4月15日の早朝に亡くなり、その直後、アンドルー・ジョンソン副大統領はワシントンのカークウッド・ハウスで、サーモン・P・チェイス最高裁判所長官によって小ぢんまりとした宣誓を行った。 1881年9月20日午前2時、第20代ガーフィールド大統領の死去を受け、チェスター・アラン・アーサーはニューヨーク市レキシントン街の自宅で宣誓を行った。2日後、アーサー大統領は連邦議事堂の副大統領室で、グラント元大統領とヘイズ元大統領の隣席の下、宣誓を繰り返した。1901年9月14日、第25代マッキンリー大統領が死去すると、シオドア・ローズベルトはニューヨーク州バッファローのアンズリー・ウィルコックスの自宅で宣誓を行った。第29代ハーディング大統領の死去の知らせは、1923年8月3日未明、バーモント州プリマスの実家にいたキャルビン・クーリッジ副大統領に届いた。クーリッジは灯油ランプの明かりを頼りに、農夫で公証人、治安判事でもあった父、ジョン・キャルビン・クーリッジ大佐が執り行う宣誓を行った。 8月21日、クーリッジはワシントンのウィラード・ホテルのスイートルームで再度宣誓を行った。
ハリー・トルーマンは、第32代ローズベルトの死後、1945年4月12日の夜、ホワイトハウスの閣議室で大統領に就任した。1963年11月22日、第35代ケネディ大統領の暗殺後、テキサス州ダラスのラブフィールド空港にあるエアフォースワンの満員の客室でリンドン・ジョンソンが大統領に就任した。この日宣誓を執り行ったサラ・T・ヒューズ判事は、女性として初めて大統領に就任宣誓を行った。1974年8月9日に第37代ニクソン大統領が辞任した際に、ジェラルド・R・フォード副大統領がホワイトハウスのイーストルームで宣誓を行い、前任大統領の残した任期を務めあげた9人目の副大統領となった。
就任式の伝統は時代とともに変化してきたが、その根本的な理念は今も変わらず揺るがない。アメリカの就任式は、その演説や付随する祝賀行事とともに、過去200年間、国家の再生とリーダーシップの継続を象徴してきた。そしてこれからも、その象徴性は変わることなく続くことだろう。
【就任演説について】
就任式で演説を行う慣習は、1789年4月30日に行われたジョージ・ワシントンの最初の就任式に遡る。ワシントン大統領はニューヨーク市のフェデラル・ホールのバルコニーで就任宣誓を行った後、上院議事堂へ進み、連邦議会議員やその他の高官の前で演説を行った。2回目の就任式は1793年3月4日、フィラデルフィアのコングレス・ホールにある上院議場で行われた。この時、ワシントン大統領は宣誓を繰り返す前に、わずか135語という記録上最も短い就任演説を行った。
ワシントン大統領以来、歴代大統領は就任演説を行ってきた。初期の大統領の多くは宣誓前に演説を読み上げていたが、現在の慣習では、最高裁判所長官がまず宣誓を行い、その後大統領が演説を行うようになっている。
第9代ハリソン大統領は、1841年3月4日、極寒で雨の降る日に、8,445語に及ぶ就任演説を行った。彼は1か月後、就任式の日に長時間雨に晒されたことが原因とみられる肺炎で亡くなった。第2代アダムズ大統領の就任演説は合計2,308語で、737語という最長のセンテンスを含んでいた。ワシントン大統領の2回目の就任演説に次いで短かったのは、1945年1月20日に行われた第32代ローズベルト大統領の4回目の就任演説で、わずか559語だった。同大統領は、第二次世界大戦の遂行に鑑み、ホワイトハウスで簡素な就任式を行うことを選択した。
1921年、第29代ハーディング大統領は、拡声器を通して宣誓と就任演説を行った初の大統領となった。 1925年、第30代クーリッジ大統領の就任演説は、初めてラジオで全米放送された。そして1949年には、第33代トルーマン大統領が就任演説をテレビを通じて行った最初の大統領となった。
ほとんどの大統領は、就任演説でアメリカのビジョンを示し、国家の目標を表明する。最も雄弁で力強い演説の中には、今日でも引用されるものがある。1865年、南北戦争末期、第16代リンカン大統領はこう述べた。「なんぴと【何人】にたいしても悪意をいだかず、すべての人に慈悲をもって、神が私たちに示し給う正義を堅持し、私たちの従事する事業の完遂に邁進しようではないか。また国民の損傷を補い、戦争に参加した兵士や未亡人、孤児たちをいたわり、国内と国際間に、公正かつ永遠の平和を招来し、維持するよう全力をつくそうではないか」【翻訳の出典はベンジャミン・P・トーマス氏著、坂西志保氏訳「リンカーン」（1970年、時事新書）下巻P.156】。1933年、第32代ローズベルト大統領は「われわれの恐れなければならないものは、恐れるというそのこと自体である」と率直に述べた。そして1961年、第35代ケネディ大統領は「そして同胞であるアメリカ市民の皆さん、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」【翻訳の出典はケネディ図書館公式ホームページ掲載の和訳】と宣言した。
今日、大統領は就任演説を議事堂西側で行うが、これは常にそうだったわけではない。1829年の第7代ジャクソン大統領の最初の就任式までは、ほとんどの大統領は下院か上院の議場で演説を行っていた。1829年、ジャクソン大統領は議事堂東側で就任宣誓と演説を行った最初の大統領となった。その後、数例を除き、1981年に第40代レーガン大統領の就任式と演説が議事堂西側で行われるまで、37回の就任式がそこで行われた。それ以来、議事堂西側が使用されてきた。
ページトップに戻る 【第2章】連邦議会図書館ホームページの「大統領就任式リサーチガイド」が紹介する豆知識
■初代ワシントン・第1回就任式（1789年4月30日）
【首都ニューヨーク市で挙行された】。屋外で宣誓が復唱された。ワシントン大統領は宣誓を復唱後、聖書にキスをした。市民に感謝するため花火により祝賀行事の幕を閉じた。急務のため、就任舞踏会は5月7日に延期された。当初、ワシントン大統領のマーサ夫人は首都ニューヨークへの旅で夫に同行しなかった【夫人は5月24日にニューヨークに到着し、チェリーストリートにある大統領官邸で夫に合流した】。
［記事］「第1回就任演説」の自筆原稿3,400万円で落札（1996年6月14日付け産経新聞夕刊から抜粋）
初代ワシントンが1789年4月30日の大統領就任演説のために書いた自筆原稿のうちの1枚(2ページ分)が1996年6月13日、ロンドンで競売にかけられ、個人の収集家とみられる人物が19万9,500ポンド(約3,400万円)の高値で競り落とした。関係者によると、ワシントンは原稿用紙31枚(62ページ分)に就任演説を書いたが、実際の演説ではこの演説を使わないで、もっと短く、中身も急進的な部分を少なくしたものにしており、これはいわば「幻の就任演説」である。ワシントンの死後、相続人からこの原稿を含む文書8箱分が、後にハーバード大学長となったジャレッド・スパークス氏に研究のため渡された。次の相続人が1837年に同文書を連邦政府に売却した際、スパークス氏が同原稿を含む一部文書を所持することを許可されたという。しかし、スパークス氏は原稿をバラバラにし、一枚一枚を収集家に次々と渡してしまった。1840年代に英国の地理学者のチャールズ・ライエル卿が合衆国を訪れた際、その一枚を入手し、ライエル家で「保存」されていた。このほど、ライエル家の子孫に当たる家のソファの下から庭師が偶然見つけたという。過去200年間で、この「幻の演説」原稿は米国でも13枚見つかっているが、英国で発見された今回の一枚が一番重要な内容を含んだ部分だといわれる。
■初代ワシントン・第2回就任式（1793年3月4日）
【暫定の首都フィラデルフィアで挙行された】。以下のとおり、最も短い就任演説（135語）だった。
「同胞諸君。私は我が国の声によって、大統領の任務を行うために再度呼び出されました。適切な時機が訪れましたなら、私は、私がこの特別な名誉ある地位に就任するという高い感情と合衆国国民の私に対する信頼についての私の感情を努めて申し上げたいと思います。
大統領としての公務を行うに先立ち、憲法は就任の宣誓を命じています。ただいまから、諸君の面前において行おうとしている宣誓ですが、もしも私の任期中、なんらかの点で故意にもしくは意識しながら憲法の命ずるところを犯すことがあれば、私は（憲法上の制裁を受ける以外に）今日、この厳粛なる儀式にご臨席の全ての皆さんの非難に甘んじて服するでしょう」。
■第2代アダムズ・就任式（1797年3月4日）
【暫定の首都フィラデルフィアで挙行された】。連邦最高裁判所長官から就任宣誓を受けた最初の大統領。
■第3代ジェファソン・第1回就任式（1801年3月4日）
【新首都】ワシントンD.C.で行われた最初の就任式。前任者たちが馬車に乗って臨んだ前例を破り宣誓式への往復とも徒歩で臨んだ。海兵隊楽団The Marine Bandが就任式で初めて演奏した（爾後すべての就任式で演奏）。初めて新聞（ナショナル・インテリジェンサー紙）が就任式の朝に就任演説を掲載した。就任式の受諾と式典の日程調整のため、議会に書簡を送る慣例が始まった。
■第3代ジェファソン・第2回就任式（1805年3月4日）
就任式は連邦議事堂下院議場で行われた。
■第4代マディソン・第1回就任式（1809年3月4日）
最初の就任舞踏会は、就任式の翌日の夜に開催された。ロングズ・ホテルLong’s Hotelで開催され、入場料は1人4ドルだった。
■第5代モンロー・第1回就任式（1817年3月4日）
就任宣誓と就任演説を屋外で行った最初の大統領。式典は、仮設のレンガ造り議事堂（現在の最高裁判所がある場所）前の演壇で行われた【連邦議事堂は米英戦争の戦禍で焼失】。就任式の当初の計画では、式典は仮設議事堂の下院議場で行われることになっていたが、下院議場で使用する椅子をめぐって上院と下院の間で小さな争いが起こり、結局、式典は議事堂前の屋外演壇に変更された。
■第5代モンロー・第2回就任式（1821年3月5日）
モンロー大統領の第2回就任式である1821年3月4日は史上初めて日曜日に当たった。モンロー大統領は最高裁判所判事と協議の上、3月5日月曜日に就任式を行うことを決定した。
■第６代アダムズ・就任式（1825年3月4日）
アダムズ大統領は式典当日、従来からの膝丈のズボンではなく、長ズボンを着用した最初の人物だった。アダムズ自身の就任式記録によると、アダムズは法令集から就任宣誓を読んだ（Adams read the oath of office from a volume of laws.）。 彼の日記第33巻1825年3月4日には次のように記されている。「私は、合衆国最高裁判所長官ジョン・マーシャルが私に示してくれた法令集から、合衆国大統領の職を忠実に遂行し、全力を尽くして合衆国憲法を守り、保護し、擁護することを宣誓した」“I pronounced from a Volume of the Laws, held up to me by John
Marshall, Chief Justice of the United States, the Oath faithfully to execute
the Office of President of the United States, and to the best of my ability, to
preserve, protect and defend the Constitution of the United States.”アダムズ大統領の説明は、1825年3月12日付のナイルズ・ウィークリー・レジスター紙の記事を含む、当時の新聞報道によって裏付けられている。同紙は、「大統領当選者は椅子から立ち、判事のテーブルの右手に位置し、最高裁判所長官から合衆国法令集を受け取り、その法令集に基づいて、大きなはっきりとした声で就任宣誓を読み上げた」と述べている。"The president elect then descended from the chair, and placing
himself on the right hand of the judges’ table, received, from the chief justice,
a volume of the laws of the United States, from which he read, in a loud and
clear voice, the oath of office."
■第7代ジャクソン・第1回就任式（1829年3月4日）
連邦議会議事堂東側で宣誓を行った最初の大統領。退任する第6代アダムズ大統領は、後任のジャクソン大統領の就任式に出席しなかった。1828年は激しい選挙戦だったため、アダムズとジャクソン両大統領の関係は良好ではなかった。ジャクソン大統領は、アダムズ大統領とその政治的盟友による暴言が自身の妻の死の原因だと非難した。
■第7代ジャクソン・第2回就任式（1833年3月4日）
ジョン・マーシャル最高裁判所長官が宣誓を執り行った最後の就任式。第2代アダムズから第7代ジャクソンまで9回の宣誓を執り行った。初めて2つの就任舞踏会が開催された。1つはカルーシズで、もう1つはセントラル・メイソニック・ホールで行われた。
■第8代バンビューレン・就任式（1837年3月4日）
イギリス施政下生まれでない初の大統領。初めて、大統領と次期大統領が馬車に同乗して就任式に向かった。
■第10代タイラー・就任宣誓（1841年4月6日）
大統領の死去に伴い大統領職を引き継いだ初の副大統領。
■第11代ポーク・就任式（1845年3月4日）
電報で報道された初の就任式。新聞のイラストで取り上げられた初の就任式。イラストは「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」紙に掲載された。
■第12代テーラー・就任式（1849年3月5日）
1849年3月4日が日曜日に当たっていたことから、先例に従い、翌3月5日月曜日に就任式を行った。就任式の夜には3つの就任舞踏会が開催され、テーラー大統領は全ての舞踏会に出席した。
■第13代フィルモア・就任宣誓（1850年7月10日）
テーラー大統領は、1850年7月9日、食中毒のため在任中に亡くなった。翌7月10日、フィルモアは下院議場で就任宣誓を行った。
■第14代ピアース・就任式（1853年3月4日）
就任宣誓のとき「私は……厳粛に誓う」ではなく「私は……厳粛に確約する」と言った【憲法にはいずれかを選択できる規定になっている。「誓う」に対するピアース反対は、「マタイによる福音書」第5章34-47節に基づく宗教的なもの】。就任演説を原稿なしに（すべて記憶から）述べた唯一人の大統領。就任舞踏会は中止された【1853年1月6日、家族で滞在していたマサチューセッツ州から自宅に戻る際に乗っていた鉄道の事故により夫妻の目前で子息を亡くし服喪だったため】。ピアース政権の副大統領ウィリアム・R・キングは就任式に出席しできなかった。キングは重病で、就任式の当時は療養のためキューバに滞在しており、1853年3月24日にキューバで就任宣誓を行った。彼はアラバマ州の自宅に戻った翌日の1853年4月18日に亡くなった。
■第15代ブキャナン・就任式（1857年3月4日）
写真に撮られたことが知られている初の就任式（下の写真）。
■第16代リンカン・第1回就任式（1861年3月4日）
国内が戦争の瀬戸際にあり、次期大統領を厳重に警護する必要から、重武装した騎兵隊と歩兵隊がリンカンの議事堂に向かう行列を守った。
■第16代リンカン・第2回就任式（1865年3月4日）
アフリカ系アメリカ人が就任式パレードに参加した初の就任式。
■第18代グラント・第1回就任式（1869年3月4日）
退任するジョンソン大統領は、グラント次期大統領に同行して議事堂に赴くことも、就任式にも出席しなかった。その代わり、ホワイトハウスに留まり直前に成立した法案に署名した。
■第18代グラント・第2回就任式（1873年3月4日）
3月4日に行われた就任式では最も寒かった就任式。正午の気温は華氏16℃＝摂氏マイナス8.89℃だった。
■第19代ヘイズ・就任式（1877年3月5日）
就任式予定の1877年3月4日は日曜日に当たっていたことから、ヘイズは平和的な政権移行を確保するため、3月3日土曜日にホワイトハウスのレッドルームで、非公式の就任宣誓を行い、3月5日月曜日に公式の就任式を行った。
■第20代ガーフィールド・就任式（1881年3月4日）
ホワイトハウス前に設置された観覧席から就任式パレードを閲兵した初の大統領。
■第21代アーサー・就任宣誓（1881年9月20日）
アーサー副大統領は、ガーフィールド大統領の死去に伴い、9月20日に滞在中だったニューヨークの自宅で就任宣誓を行った。9月22日に議事堂の副大統領執務室で2回目となる就任宣誓を行ったが、それにはヘイズとグラントの二人の元大統領が出席した。
■第22･24代クリーブランド・第1回就任式（1885年3月4日）
1885年からと1893年から、連続しない2期を務めた初の大統領。そのため、第22代大統領および第24代大統領と言及されている。
■第25代マッキンリー・第1回就任式（1897年3月4日）
映画カメラで記録された初の就任式。就任式パレードにガラス張りの観覧席を設けた初の大統領。議会が大統領と副大統領のために昼食会を主催した最初の就任式。
■第25代マッキンリー・第2回就任式（1901年3月4日）
連邦議会が「就任式に関する合同議会委員会JOINT CONGRESSIONAL COMMITTEE ON INAUGURAL CEREMONIES（JCCIC）」を初めて設立して就任式の準備を行った。
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■第26代ローズベルト・就任宣誓（1901年9月14日）
ローズベルトの就任宣誓では聖書は使用されなかった。
■第26代・第2回就任式（1905年3月4日）
就任式のために議事堂敷地内に初めて電話が設置された。
■第27代タフト・就任式（1909年3月4日）
猛吹雪のため、就任式は上院議場で行われた。強風により木々や電柱が倒れ、列車は停車し、市街地の道路は通行不能となった。市の職員たちは夜通し、砂や雪を取り除いた。パレードのルートから5万8,000トンの雪とぬかるみを取り除くのに、6,000人の作業員と500台の荷馬車が必要だった。ヘレン・タフト大統領夫人は、夫の就任式後、議事堂からホワイトハウスへの帰路の馬車に同乗した初のファーストレディとなった。
［記事］タフト夫人が夫と馬車に同乗したときの感動を回想。
選挙の少なくとも2年前、次期大統領が誰になるのか誰も予想できなかった頃、【第26代】ローズベルト大統領は閣議で、後任の大統領とホワイトハウスに戻るつもりはないと発表していました。これは彼が気に入らなかった前例であり、改めたいと考えていたものでした。ローズベルト夫人は、就任式の後、夫が合流するのを待つため、家族や友人と共にホワイトハウスから直接駅へ向かいました。【アーチボルド・】バット大尉【1865年生・英国客船タイタニック号に乗り合わせ沈没事故で1912年没。ローズベルト、タフト両大統領の軍事補佐官】と私がリムジンで国会議事堂に向かったのは11時半頃でした。到着すると、上院議場では式典の「準備」が既に整っていました……。
この就任式は、多くの関係者から、大統領就任式の中でも最も印象的なものの一つと言われていました……それは大変な出席者数でした。集まった国家の指導者と世界の代表者たちの前で、厳粛な沈黙の中、一言一言が聞き取れる中で宣誓が行われ、就任演説が行われたことは、深い印象を残しました。
タフト氏が演説を終えるとすぐに、ローズベルト氏は急いで歩み寄り、彼の手を力強く握りしめ、「素晴らしい演説だ、親父さん！」Bully speech, old man!
とも聞こえるようなことを言い、駅で見送りをすることになっていた閣僚たちに付き添われて議場を急いで出て行きました。夫が後に私に話してくれたところによると、彼が実際に言ったのは「親父さん、神のご加護がありますように。これは偉大な国の文書ですよ」God bless you, old man. It is a great state document.だったそうです。
前大統領が後任大統領と共にホワイトハウスに戻るつもりはなかったので、私はそうすることにしました。大統領夫人がそうしたことなど前例がありませんでしたが、前例が無視される限り、今回無視してもそれほど大きなリスクにはならないだろうと思いました。もちろん、反対意見もありました。就任委員会の一部からは反対の声が上がりましたが、私は自分のやり方を貫き、反対を押し切って夫の傍らに立ちました。
就任式が終わる頃には空は晴れ渡り、太陽が顔を出していました。タフト氏は委員会と共に上院議場を出て行き、集まった高官たちは列席順に続いて退席しました。バット大尉と共に私は傍聴席から急いでドーム下の大広間へ向かい、天候が悪ければ就任式が行われるはずだった北側の演壇へと向かうタフト氏に合流しました。仮設の建物の前には多くの人々が集まっており、私たちが前方へ降りていくと、彼らは新大統領を呼びかけました。それに応えて新大統領は就任宣誓が行われるはずだった演壇に歩み寄り、何度も頭を下げました。
騎馬警官小隊と護衛のクリーブランド市部隊は、朝のみぞれと泥で多少汚れた精巧で美しい制服をまとい、演壇から降りる階段で私たちを出迎えました。私たちは公式のバスに乗り込み、ゆっくりと国会議事堂の敷地内を通りペンシルベニア通りへ、そしてホワイトハウスへと向かいました。先ほど書いたとおり、雲は流れ、寒さはありましたが、空は明るく、期待に胸を膨らませた群衆が歩道やスタンドを埋め尽くし、彼らから受けた歓迎は、まさに私の想像通りのものでした。
私にとって、あのドライブは就任式の日に最も誇らしく、そして最も幸せな出来事でした。おそらく、女性としてかつて成し遂げたことのない偉業を成し遂げているという思いに、ひそかに小さな高揚感を覚えていたのでしょう。前夜の不安も、恐ろしい天候による狼狽も忘れ、あらゆる困難が吹き飛んだようでした。まだ責任に頭を悩ませる時期ではなく、夫が実際に合衆国大統領であり、歓声を上げる群衆がその事実を称賛しているという実感を、ほぼ満喫することができました。
【出典】ヘレン・タフト夫人著「回想 満ち足りた歳月」（1914年、ドッド・ミード社発行）PP.329-332。
就任式を終え、議事堂からホワイトハウスに戻るタフト大統領夫妻。議会図書館所蔵。
■第28代ウィルソン・第1回就任式（1913年3月4日）
就任舞踏会は1853年以来初めて中止された。ウィルソン大統領は舞踏会は就任式という荘厳な行事に相応しくないと判断し中止を要請した。
■第28代ウィルソン・第2回就任式（1917年3月5日）
日曜日に就任宣誓を行った初の大統領。1917年3月4日が日曜日に当たっていたことから、ウィルソン大統領は同日、議事堂の大統領室でエドワード・D・ホワイト最高裁判所長官によって非公式に宣誓を行った。公式の就任式は3月5日月曜日に行われた。エディス・ボーリング・ゴールト・ウィルソン大統領夫人は、議事堂への往復とも大統領に同行した初のファーストレディとなった。就任式パレードに初めて女性が参加した。
■第29代ハーディング・就任式（1921年3月4日）
就任式に自動車に乗って往復した初の大統領。ハーディング大統領夫妻とその近親者は、就任式直後にホワイトハウスで昼食をとった。この昼食会は、退任するウィルソン大統領夫妻が手配したもので、1889年にクリーブランド大統領夫妻がパレード前にハリソン夫妻をホワイトハウスに招待したという先例に倣ったものだった。
■第30代クーリッジ・第2回就任式（1925年3月4日）
ラジオで全国放送された初の就任式。タフト元大統領が最高裁判所長官として初めて就任宣誓を執り行った。
■第31代フーバー・就任式（1929年3月4日）
発声映画ニュースで記録された初の就任式。就任式後、正副大統領夫妻を始め、閣僚、タフト最高裁判所長官夫妻、ロングワース下院議長夫妻【妻は第26代ローズベルト大統領の長女アリス夫人】などがホワイトハウスに戻り、パレード前の昼食会に臨んだ。
■第32代ローズベルト・第1回就任式（1933年3月4日）
ローズベルト夫妻は就任式の朝、セント・ジョーンズ教会での礼拝に出席し、新たな伝統となった。ローズベルト大統領は、4回の大統領就任式すべてでローズベルト家の聖書を使用した。これは1686年に印刷されたもので、就任式で使用された最古の聖書にして、唯一のオランダ語の聖書である。ローズベルト夫妻は、就任式後にホワイトハウスで数百人のゲストを招いてビュッフェ形式の昼食会を開催する予定だったが、ルーズベルト夫人は、最近亡くなったトーマス・J・ウォルシュ上院議員の訃報（1933年3月2日没）を受け、直前にこの昼食会を中止とした。ウォルシュ上院議員はローズベルトから司法長官に指名されていた。
■第32代ローズベルト・第2回就任式（1937年1月20日）
1月20日に就任した初の大統領。就任式の期日は憲法修正第20条に基づいて変更されたもの。このとき初めて次期副大統領が次期大統領と同じ屋外の壇上で就任宣誓を行った。副大統領の就任演説は行われなかった。大統領夫妻は、ホワイトハウスのステート・ダイニングルームとイーストルームで600名のゲストをビュッフェ形式の昼食会に招き、温かいコーヒー、サンドイッチ、ケーキを提供した。
■第32代ローズベルト・第3回就任式（1941年1月20日）
3期目の就任宣誓を行った初の大統領。ローズベルト大統領夫妻はホワイトハウスに1,200人のゲストを招き、トマトスープ、サラダ、牛肉、ハム、タン、ケーキ、アイスクリーム、コーヒーなどのビュッフェ式昼食会を催した。
■第32代ローズベルト・第4回就任式（1945年1月20日）
4期目の就任宣誓をした初の大統領。1951年に批准された憲法修正第22条により大統領の任期は2期に制限されている。第二次世界大戦のさなか、第4回就任式は簡素で質素なものだった。就任式後にはファンファーレや正式な祝賀行事は行われなかった。ガソリン配給制と木材不足のためパレードも行われなかった。
■第33代トルーマン・就任宣誓（1945年4月12日） ページトップに戻る
ローズベルト大統領の訃報を受けてからわずか2時間後に就任宣誓を行った。
■第33代トルーマン・第2回就任式（1949年1月20日）
テレビ中継された初の就任式。就任舞踏会が復活された。
■第34代アイゼンハワー・第1回就任式（1953年1月20日）
宣誓後、聖書にキスする前例を破り、自ら祈祷を唱えた。 映像はこちら 演説全文はこちら
JCCICが初めて議事堂で就任昼食会を主催した。
■第34代アイゼンハワー・第2回就任式（1957年1月21日）
1957年1月20日が日曜日に当たっていたことから、アイゼンハワーはホワイトハウスのイーストルームで、アール・ウォーレン最高裁判所長官によって非公式に宣誓を行った。公式の就任式を1957年1月21日月曜日に行った。
■第35代ケネディ・就任式（1961年1月20日）
議事堂東側で就任式が行われた初の大統領。初めて下院議長が次期副大統領に就任宣誓を執り行った。それ以前は、上院仮議長、前副大統領、または、上院議員が宣誓を行っていた。次期大統領の両親が息子の就任式に出席した初の例。初のカトリック教徒の大統領として宣誓に初めてカトリック（ドゥエー）版聖書が用いられた。カラー映像が放映された初めての就任式。5つの舞踏会が催された初の就任式。就任式で伝統的なストーブパイプ帽をかぶった最後の大統領。
■第36代ジョンソン・就任宣誓（1963年11月22日）
初めて女性が就任宣誓を執り行った。サラ・T・ヒューズ連邦地方判事は大統領専用機エアフォースワン内でジョンソンに宣誓を執り行った。大統領が飛行機内で就任宣誓を行った初にして唯一の例。
■第36代ジョンソン・第2回就任式（1965年1月20日）
ケネディ大統領暗殺を受け、ジョンソン大統領の就任式は厳重な警備体制が敷かれた。史上初めて、大統領は防弾仕様のリムジンに乗った。
■第37代ニクソン・第1回就任式（1969年1月20日）
先祖伝来の2冊の聖書を用い宣誓を行った。就任式では、国務省西講堂で、一般公開された公式の3つの宗教による祈祷式が行われた。
■第38代フォード・就任宣誓（1974年8月9日）
史上初めて、全国選挙の洗礼を受けていない副大統領が大統領に就任。大統領の辞任に伴い副大統領が大統領に就任するという憲法修正第25条の規定に基づき大統領に就任した初の副大統領。
■第39代カーター・就任式（1977年1月20日）
就任宣誓は家族の聖書が用いられ、演壇にはジョージ・ワシントンが使用した聖書も置かれていた。カーター大統領の要請により伝統的な就任昼食会は開催されなかった。就任式後、議事堂の直近でリムジンを降り、家族と共にペンシルベニア通りをホワイトハウスまで歩いた初の大統領。退任したフォード大統領はヘリコプターで議事堂を後にした初の大統領。閲兵台に太陽熱暖房が利用され、パレード観覧席にはバリアフリー設備が設けられた。
■第40代レーガン・第1回就任式（1981年1月20日）
議事堂西側で行われた初の就任式。記録上最も暖かい就任式で、正午の気温は華氏55度＝摂氏約13度に達した。
■第40代レーガン・第2回就任式（1985年1月21日）
1月20日が日曜日に当たっていたことから、レーガン大統領はホワイトハウスで非公式の就任式を行った。翌1月21日の公式就任式は、極寒のため国会議事堂内のロタンダで行われた。史上最も寒い就任式【就任式が3月4日に行われていた時代では第18代グラント大統領の第2回就任式が最も寒かった】。正午の気温は華氏7度＝摂氏マイナス13.9℃だった。
■第42代クリントン・第2回就任式（1997年1月20日）
インターネットで生中継された初の就任式。
■第43代ブッシュ・第1回就任式（2001年1月20日）
ブッシュ大統領は、1789年にジョージ・ワシントン大統領が使用し、1989年に父ジョージ・H・W・ブッシュ大統領も使用したフリーメーソンの聖書を使用することを希望していた。この歴史的な聖書は、就任式のために警戒監視の下、ニューヨークから首都ワシントンへ発送されたが、悪天候のために家族の聖書が代わりに使用された。
■第43代ブッシュ・第2回就任式（2005年1月20日）
史上最大規模の就任式の演壇。就任式の演壇建設の様子を初めてウェブカメラで生配信。
■第44代オバマ・第1回就任式（2009年1月20日）
初のアフリカ系アメリカ人の大統領、初のハワイ生まれの大統領として就任。首都ワシントンの歴史上、最も多くの出席者を集めた行事。史上、最も多くの出席者を集めた就任式。1861年3月4日、第16代リンカン大統領が使用したのと同じ聖書を用いて就任宣誓を行った。
■第44代オバマ・第2回就任式（2013年1月21日）
1861年3月4日に第16代リンカン大統領が使用したのと同じ聖書を再び用いて就任宣誓を行った。
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【第3章】特異な就任式と就任宣誓を興味本位に考察
◆後任の大統領就任式に臨席しなかった退任大統領＝これまで7例ある。
【1】第2代アダムズ（1801年3月4日のジェファソン就任式）
【2】第6代アダムズ（1829年3月４日のジャクソン就任式）
【3】第8代バンビューレン（1841年3月4日のハリソン就任式）
【4】第17代ジョンソン（1869年３月４日のグラント就任式）
【5】第28代ウィルソン（1921年3月4日のハーディング就任式）
【6】第37代ニクソン（1974年８月９日のフォード就任式）
【7】第45代トランプ（2021年1月20日のバイデン就任式）
【参考】トマス・バルチェルスキー博士による「注目すべき欠席：就任式に出席しない大統領」（2021年4月26日）はこちら。
［記事］
【1】第２代アダムズは、退任前日の1801年3月3日午後9時まで、親連邦党派の裁判官を任命する「深夜の任命」の仕事を行った。翌3月4日の第3代ジェファソンの就任式に出席することを拒否して、３月４日午前４時ころ、郷里マサチュセッツ州に向け出発した。
【2】第６代アダムズは、父第２代アダムズ同様、後任者であるジャクソンの就任式への出席を拒否した。1828年の大統領選挙では、第6代アダムズと第7代ジャクソンは対立候補として選挙戦を戦ったが、アダムズ陣営から特に結婚をめぐる誹謗に傷ついたジャクソン夫人が選挙戦終了直後に突如亡くなるという悲劇がジャクソンを襲った。二人の不仲は決定的となり、ジャクソンは大統領就任式のため、首都ワシントンに到着後も現職大統領を訪問するなどの敬意を一切払わなかった。アダムズはジャクソンの就任舞踏会のときまでにホワイトハウスを引き払い、ワシントン市内のメレディアン・ヒルにあるデイビッド・ポーター提督の邸宅に引っ越した。そこは、アダムズ夫人が健康を害し、春までは郷里マサッチュセッツ州クインシーまで帰ることができなかったので、仮住まいのため借りたものだった。アダムズは1829年３月３日正午、息子２人を連れだって連邦議事堂に馬車で向かい、パナマに関する指示を内容とする8番目の教書を上下両院に送付した。そして、15通の法案に署名した。午後２時から３時の間に上下両院の代表から議会開会の準備ができた旨の声明を受けた。その後、ホワイトハウスまで徒歩で帰り、アダムズは、閣僚に対し、翌日の後任者の就任式に出席すべき否かを諮った。リチャード・ラッシュ財務長官を除き全閣僚は欠席すべきと助言した。午後９時に仕事を終えたアダムズは、メレディアン・ヒルに戻り家族と合流した。
【3】「マーティン・バンビューレンはなぜウィリアム・ヘンリー・ハリソンの就任式に出席しなかったのか？」（ホームページ「バンビューレン文書」から）
当方とホワイトハウス歴史協会のマシュー・コステロ氏の調査によると、マーティン・バンビューレンは後任のウィリアム・ヘンリー・ハリソンの就任式に出席しなかったようだ。複数の新聞報道は、バンビューレンの欠席と、退任するリチャード・M・ジョンソン副大統領の出席を同時に報じていた。ある新聞は、バンビューレンが正午まで議事堂にいて法案に署名し、その後退任するヘンリー・D・ギルピン司法長官のもとへ向かったと報じている。しかし、一部の新聞報道とは異なり、バンビューレンは就任式当日にワシントンを離れず、3月13日まで首都に留まった。
バンビューレンが就任式を欠席した明確な理由はないようだ。彼と新大統領は仲が良かったようだ。例えば、ハリソンは3月11日にバンビューレンを夕食に招待した。バンビューレンが就任式に出席しなかった理由は2つ考えられる。第一に、1840年の選挙戦はバンビューレンにとって厳しいものだった。彼はエリート主義者、君主主義者、そして自らが引き起こした深刻な経済不況から国を脱却させることに失敗したと非難されていた。バンビューレンはハリソンを個人的に責めたわけではないかもしれないが、あまりにも多くの批判を受け、後継者が政権を握るのを見る屈辱に耐えられないと判断したのかもしれない。第二に、息子のマーティン・ジュニアが重病だった。バンビューレンが息子の面倒を見ていたとは考えにくいが、病気を口実に就任式への出席を断ったのかもしれない。
要するに、バンビューレンがハリソンの就任式に出席しなかったことは間違いないと言えるが、欠席の理由は明確ではない。
［参考］1841年3月11日付けアレクサンドリア・ガゼット紙の記事（同紙P.3）
「バンビューレン氏……この紳士は、リチャード・M・ジョンソン大佐と異なり、就任式に姿を現さなかった。ジョンソン前副大統領は、きわめて堂々と、かつ、上品な振る舞いで、タイラー氏を副大統領席に案内し、同氏の就任宣誓に立ち合い、その後、議事堂東側会場まで【ハリソン】次期大統領に同伴した。バンビューレン氏は、3月3日の朝までホワイトハウスに居を構えていたところ、【就任式当日の3月4日は】議事堂に赴き、彼はそこで歳出法案や他の法案に承認署名をするなどして12時まで留まった。その後、ホワイトハウスはっすでに彼の住まいではなくなっていたので、司法長官だったギルピン氏邸に向かった」。
【4】第17代ジョンソンは、グラント大統領の就任式に出席することをぎりぎりまで決めかねていた。ジョンソンはこれまでグラントといくつかの確執があったのである。ジョンソンはグラントが大統領に就任する1869年3月４日午前９時、閣僚をホワイトハウスに集め、処理すべき法律案に署名したり、拒否権を行使したりした。そして、ジョンソン大統領は、グラントの就任式に出席しないことを最終的に決断した後、同日、正午すこし過ぎ（グラント新大統領が就任式をしているころ）、大統領の仕事を終え、閣僚一人一人に別れの挨拶をしてホワイトハウスをあとにした。
【5】第28代ウィルソンは、1919年に発症した脳溢血の後遺症が残っていた。国民は、民主党現職のウッドロー・ウィルソンの後任として、オハイオ州出身の共和党員ウォーレン・G・ハーディングを選出した。当初、二人は政権移行における党派間の対立を脇に置こうとした。ハーディング夫妻の首都到着を聞いたエディス・ウィルソン大統領夫人は、フローレンス・ハーディングをホワイトハウスに招き、お茶を振る舞った。そして3月3日、ハーディング夫妻はホワイトハウスでお茶を共にした。就任式の日の朝、ハーディング次期大統領は車でホワイトハウスに到着し、ウィルソン氏も同乗して議事堂に向かった。議事堂に到着すると、それまでの和やかな雰囲気はたちまち消え去った。脳卒中の影響で移動が制限されていたウィルソン氏は階段を上ることができず、議事堂東側で行われるハーディング氏の就任式には出席しない意向を表明していた。しかし、ウィルソン夫人の記憶によれば、式典前に二人はエレベーターで議事堂に入る予定だった。しかし、議事堂に到着すると、ウィルソン夫人はこう回想している。「ハーディング氏は、思いやりもなく夫を一人車に残したまま、車から降り、微笑み、帽子を振りながら階段を上って行きました」。その後、ウィルソンはエレベーターで議事堂に入り、署名すべき最終法案を待った。しかし、ウィルソン夫人はこの軽蔑的な態度を看過できず、「議事堂での愚行に憤慨している」と述べた。ウィルソン大統領は「私の怒りを笑っていました」とも回想している。ウィルソン夫妻は後継者の就任式を欠席し、ワシントン市内Sストリートにある新居へと車で向かった。
【6】第37代ニクソンは、国内政治が混沌とする中、史上初の辞任演説で、1974年8月9日「正午」に辞任する旨を明らかにした。8月9日辞任当日の午前、ニクソンは、ホワイトハウススタッフを前にお別れの演説をしたあと、夫人とともに大統領専用ヘリコプターでホワイトハウスから郷里に旅立った。このため、ニクソンは、「正午」を待たずに、かつ、後任のフォード大統領就任式に出席することなく、機上の人となった。
【7】第45代トランプは、退任当日の2021年1月20日午前8時18分に大統領専用ヘリ「マリンワン」でホワイトハウスを出発しワシントン郊外のアンドルース空軍基地に到着後、自身の退任式を開いた。午前9時に大統領専用機で同基地を出発し、その後、フロリダ州パームビーチの別荘マール・ア・ラーゴに入った。ちなみに、大統領が核攻撃を命じるための、いわゆる「核ボタン」（核のフットボール＝ブリーフケース）は大統領就任式で引き継がれるのが通例とされているところ、報道によると、第45代トランプの就任式欠席を受け2つのフットボールを用意し設定した時間に古いフットボールの暗号を無効化する手続きがとられた。
◆大統領宣誓の文言を間違った事例と対応 ページトップに戻る
【1】第27代タフトの1909年就任宣誓。
第27代タフトの就任宣誓を執り行ったメルビル・フラー最高裁判所長官は宣誓文の文言を間違った。ジェフリー・ローゼン氏はその著「ウィリアム・ハワード・タフト」（2018年、タイム・ブックス発行）で「タフトは、就任宣誓を行うに当たり、最高裁判所判事が何十年も使用してきた聖書を用いることとした。彼は、メルビル・フラー最高裁判所長官とともに大統領宣誓を繰り返したが、長官は文言を間違えた。タフトは、自身が憲法制定者たちと同じく呼称していた合衆国最高位の行政官となった」。しかし、いずれの文献を見ても、フラー長官がどのように宣誓文言を間違ったのかは不明である。その後、この間違いを訂正する動向はなかった。
［参考］ヘレン・タフト夫人はその著書「回想 満ち足りた歳月」（1914年、ドッド・ミード社発行）で就任宣誓の様子を次のように回想している（同書PP.330-331）。
「この就任式は、多くの関係者から、大統領就任式の中でも最も印象的なものの一つと言われていました。就任宣誓と就任演説は通常、議事堂前に設置された巨大な演壇で行われ、そこには1万人が集まります。しかし【荒天の影響で議事堂の屋外演壇で行うことができず】夫の就任式は上院議場で行われ【ましたが、】「全国民の目の前で」行われたという点では変わりませんでした。議場には、ワシントンに駐在する合衆国政府の全職員が座るスペースがありました。退任する大統領とその閣僚、法服姿の最高裁判所判事、上下両院議員、そして外国大使と華やかな制服を着た全外交団が出席し、傍聴席には招待された家族や相当数の傍聴者で混雑していました。それは大変な出席者数でした。集まった国家の指導者と世界の代表者たちの前で、厳粛な沈黙の中、一言一句が聞き取れる中で宣誓が行われ、就任演説が行われたことは、深い印象を残しました」。
【2】第31代フーバーの1929年就任宣誓。
第31代フーバーの就任宣誓を執り行ったウィリアム・タフト最高裁判所長官は宣誓文の文言を間違った。タフト長官は大統領退任後、1921年、第29代ハーディングから最高裁判所長官に任命された。タフトは、２つの最高ポストに就いたただ一人の人物である。タフトは1921年6月30日から1930年2月3日までの間、最高裁判所長官の職にあり、この間、大統領の就任宣誓を2回執り行った。1回目は1925年3月4日の第30代クーリッジで、2回目が1929年3月4日の第31代フーバーであった。フーバーの就任宣誓を行った際、タフトは”preserve, protect, and defend the Constitution of the United
States.”と言うべきところ、“preserve, maintain, and defend
the Constitution of the United States.”と間違った。フーバーは、タフト長官がこの就任宣誓文を読み上げた後、I do. とだけ復唱し聖書にキスした。その様子は、YouTubeで視聴できる。この間違いに若干の反応があったもの、【1】の例と同様、その後、この間違いを訂正する動向はなかった。
［参考］伝記「ウィリアム・タフトの生涯と時代」の状況説明
タフト最高裁判所長官の精神も、忍び寄る老いの影から完全に逃れることはできなかった。「以前ほど速く書けなくなったような気がする……書く方法も以前よりのんびりしている」と彼は1925年2月に嘆いた。3年後、かつて知り合いだった人物に関する情報を求められたタフトは、思い出せないと答えた。「記憶力はますます衰えている」と彼は言った。「実は、以前ほど頭が働かず、気が散ってしまう」と彼は付け加えた。その証拠は、1929年3月のフーバー大統領就任式で明らかになった。最高裁判所長官が宣誓を行い、その様子は初めてラジオで放送された。タフトは言葉に些細な変更を加えたが、それは全く重要ではなかった。ニューヨークに住む少女【13歳】が、それを聞いて訂正してほしいと手紙をしたためた。「その違いは老人の記憶力の欠陥によるものと考えられます」と最高裁判所長官は応えた（1929年3月8日付けタフト氏からヘレン・ターウィリガー嬢宛て書簡への手紙）。
【出典】ヘンリー・F・プリングル氏著「ウィリアム・タフトの生涯と時代」（1939年、ファラ・アンド・ラインハルト社発行）第2巻P.1074。
【3】第36代ジョンソンの1965年就任宣誓。
第36代ジョンソンの就任宣誓を執り行ったアール・ウォーレン最高裁判所長官は宣誓文の文言を間違った。ウォーレン最高裁判所長官は、”I will faithfully execute the office of President of the
United States”と言うべきところ、”I will faithfully execute the
office of Presidency of the United States”と間違った。ジョンソン大統領も ”I will faithfully execute the office of Presidency of the
United States”と間違って復唱した。その様子はYouTubeで視聴できる。【1】【2】の例と同様、その後、この間違いを訂正する動向はなかった。
【４】第44代オバマの2009年就任宣誓。
第44代オバマの就任宣誓を執り行ったジョン・ロバーツ最高裁判所長官は宣誓文の文言を間違った。ロバーツ最高裁長官は、”I will faithfully execute the office of President of
the United States” と言うべきところ、”I will execute the office
of President to the United States faithfully” と間違えた。オバマは間違った宣誓を繰り返した。それ以外にも、オバマが宣誓を繰り返す際に、つっかえやつまずきもあった。その様子は、YouTubeで視聴できる。【1】【2】【3】の例とは異なり、この間違えに多くの議論が起こり最終的に、オバマ大統領は、翌1月21日午後7時30分過ぎに、ホワイトハウスのマップルームで、ロバーツ長官から再度、今度は正しく、就任の宣誓を繰り返した。
上記のとおり、オバマは、2009年に二度就任宣誓を行うことになったが、さらに、オバマの第2回就任式の2013年1月20日が日曜日に当たっていたため、オバマは念のため、同日にホワイトハウスで非公式の就任宣誓を行った上で、翌1月21日に公式の就任宣誓を行った。こうして、オバマは、回数において第32代ローズベルトと同様、任期中に計４回の就任宣誓を行った大統領となった。
FDR①1933年3月4日。 オバマ①2009年1月20日。
FDR②1937年1月20日。 オバマ②2009年1月21日。
FDR③1941年1月20日。 オバマ③2013年1月20日。
FDR④1945年1月20日。 オバマ④2013年1月21日。
［記事］大統領「三選禁止」でも「３回就任」できる。
アメリカの独立以来、同じ大統領が選挙で３回選ばれないことは、歴史の不文の慣例であった。初代ワシントンが、三選されるのを辞退したのを前例として、1930年代第31代フーバーまでその伝統は守られてきた。しかし、第32代ローズベルトは、この慣例を破って、三選どころか四選まで果たしてしまった。その後多選への批判が高まり、1951年修正憲法第22条により、三選禁止が明確にされたのである。
さて、現在ではいかなる大統領も２期８年しか大統領職につけないのであろうか。
選挙で選ばれて就任したA大統領の下で副大統領の職についたＢは、Ａが任期半分（2年間）を経過した段階で（たとえば２年１か月目）不測の事態（死亡等）により欠けたとき、大統領に昇格できる（ただし、残り任期は1年11か月）。そして、このＢ大統領は、選挙によって選ばれた大統領ではなく引き継ぐ任期が２年未満であるので、つぎの２回の選挙には立候補でき、合法的に２回選ばれることが可能なわけである（同修正憲法）。つまり、Ｂ大統領は「３回就任」し、トータルで10年近く（ただし10年は超えられない）大統領職にあることができるのである。
なお、このケースで、もしＡ大統領が就任後「２年経たないうち」に死亡し、Ｂ副大統領が昇格し、残りの任期が「２年以上」ある場合には、「１回選挙で選ばれたのと同じ」にみなされるので、あと１回しか選挙による大統領就任はないのである。この場合の在任期間は８年に満たないわけである（同修正憲法）。
【出典】外務省監修「アメリカの読み方 知られざる大国、一問一答」（1985年、講談社発行）PP.18-20。 ページトップに戻る
◆就任宣誓方式の変更＝第32代ローズベルトの新機軸
第31代フーバーまでは、大統領自身は、最高裁判所長官の執り行う就任宣誓に対し、単に
''I do.'' とだけ言っていた。第32代ローズベルト（以下FDRと略称する）は、1933年の第１回就任宣誓において、チャールズ・ヒューズ最高裁判所長官の宣誓文読み上げに続き、自身が全文を復唱する方式に変更した。ここでは、それまでの慣習を破った経緯を見ていく。
【出典】エリオット・ローズベルト氏（FDRの二男）編「FDR 私信集」（1950年、デュエル・スローン・アンド・パース社発行）第３巻PP.330-333。
【１】連邦最高裁判所書記官チャールズ・Ｅ・クロプリーからニューヨークのFDR宛て書簡。
「首都ワシントン 1933年2月20日
ローズベルト知事 殿
来る3月4日、閣下の合衆国大統領就任に係る式典の細部に関し、私は最高裁長官から閣下のご意向を確認するよう指示されています。
広く公衆が見守る儀式ですから、就任の宣誓に際し混乱がないよう、あらかじめ細部を確定しておくことは、明らかに望ましいことと存じます。
したがいまして、まず、私は以下の通り、書記官が図書館において過去の事例を調査した内容を列挙します。近年、行われている手順によれば、次期大統領は就任宣誓会場に到着後、中央の就任演説演台の横に南方を向いて位置します。その反対側に最高裁長官が位置します。二人の間には最高裁書記官が聖書を持って位置します。聖書は、次期大統領が指定したページが開けられています。最高裁長官と次期大統領はそれぞれ自身の右手をあげ、最高裁長官が就任宣誓文読み上げます。宣誓文の読み上げが終わりますと、次期大統領は、それに ''I do.'' と応えます。それから、聖書が差し出され、次期大統領は自らが選定したページの項の部分にキスをします。
この手順に同意され、閣下の就任式においても同様とされるか、あるいは、いずれかの点を改められるかをお聞かせください。就任式の期日前に、当日開いておくべきページをご指定の上、閣下が聖書をご提出いただければ、最高裁書記官がこれを保管いたします。これにご異存なければ、聖書を安全にお預かりし、書記官が当日に、選定されたページを開くことをお約束いたします。
次に、以上のことに加え、(1)閣下は、誓うswearを使うか、あるいは、確約するaffirmを使うか、(2)閣下のお名前は、省略せずすべてを言うか、ミドルネームを省略して頭文字で言うか、の2点をお知らせください。
以上について、閣下のご意向をお聞かせいただき、最大限の対応をしてまいります」。
【２】FDRから首都ワシントンの書記官クロプリー宛て書簡。
「ニューヨーク市 1933年2月25日
クロプリー様
あなたが2月20日付けの書簡で提示された手順は全体として申し分ないものですが、私にとっては、''I do.'' と応える代わりに、最高裁長官が読み上げる宣誓文を復唱するほうが好ましいのではないか、という点につき疑義を提示したいと思います。このことについて長官にお諮りいただければと思います。私にはこのことについて詳細な意向があるわけではありませんので、長官のご判断に従うつもりです。
次に、私は、誓うswearを使います、また、自分の名前を省略せずに全部を言うことが一番良いと考えます。
さらに、私がニューヨーク州知事就任式で二度使ったオランダ語の我が家の古い聖書をお持ちいただくことを希望します。この聖書は非常に大きく、重いものです。貴台が３月３日金曜日に宿泊先のメイフラワーホテルにお立ち寄りいただけないでしょうか。開いておいていただきたいページに印をほどこしたうえで、その聖書をお渡ししします。
最後に、同封の書簡を私の旧友である長官にお渡しいただければ幸いです」。
［参考］ジーン・スミス氏著「FDR」（2007年、ランダムハウス社発行）によれば、この聖書は、1650年代にFDRの先祖クラエス・バン・ローゼンベルトがアメリカに移住したときに持参したオランダ語の家族用聖書であり（同書P.301）、原著注によると、第１回就任宣誓でFDRが選んだこの聖書の箇所は、聖パウロのコリントの信徒への最初の手紙に関する第13章だったとのことである。
【2-2】同封：FDRから首都ワシントンのヒューズ最高裁判所長官宛て書簡。
「ニューヨーク市 1933年2月25日
最高裁判所長官 殿
私は、就任宣誓に係る詳細について書簡でコルプリー氏に回答いたしました。氏はそれに関し長官に諮るでしょう。
長官が私の就任宣誓を司ることにご配慮いただけることは私にとってこの上ない幸せです。長官との永年の友情と長官に対する私の賞賛と尊敬に加え、私は、一人のニューヨーク州知事経験者が、別のニューヨーク州知事経験者に就任宣誓を行う必然を興味深く思います。
これからの連携とこれまで以上にお会いする機会があることを楽しみにしております」。
［参考］FDRは第44代ニューヨーク州知事（1929-1932年在任）、ヒューズ長官は第36代ニューヨーク州知事（1907-1910年在任）だった。
【３】ヒューズ最高裁判所長官からニューヨークのFDR宛て書簡。
「首都ワシントン 1933年2月28日
次期大統領 殿
閣下から書簡をいただいたことは私の最大の喜びです。閣下が私の心からの祝辞と厳粛な希望により偉大な職務に就かれ、最も成功する政権となる、そのために大統領就任の宣誓を執り行うことは、崇高な職権でありましょう。
私は、閣下が単に ''I do.'' と応える代わりに宣誓文を復唱すると提案されたことを歓迎いたします。私は宣誓を復唱することは、より威厳のある、ふさわしいあり方であると思います。したがいまして、閣下が宣誓を行う用意ができ次第、私は、『あなた、フランクリン・デラノ・ローズベルトは……厳粛に誓う』と宣誓文を読み上げます。そして、それから閣下が『私、フランクリン・デラノ・ローズベルトは……厳粛に誓う』と宣誓文を復唱してください。宣誓文は短いので、私にとっては、閣下が復唱する前に、宣誓文を全文申し上げたい。もちろん、閣下が、句ごとに、私について復唱するほうが良いということもあるでしょう。閣下に異存なければ、前者のやり方で行うことを約束いたします。私から書記に憲法記載の正確な宣誓文をメモにして用意するよう話してあります。
私は、閣下が友情をもって提言していただいたことに心からお応えしたいと思います」。
上は、FDRの第４回就任に使われた宣誓文。FDRとハーラン・ストーン最高裁判所長官（1941-1946年在任）の署名が共になされている。さらに、FDRが復唱したとおり、文中3か所を一人称に大統領自身が書き加えている（エリオット・ローズベルト氏編「FDR私信集」第４巻 PP.1498-1499）。
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【第4章】大統領任期の開始時期を興味本位に考察
◆新大統領の職務開始時期
1787年、フィラデルフィアで開かれた憲法制定会議は、採択した新憲法に大統領の任期の開始日を定めなかった。1788年に憲法が批准された後、連合規約の「旧会議」は、1789年3月4日を「当該憲法に基づく手続きの開始する」期日と宣言した。1792年、連邦議会は各大統領選挙後の3月4日を大統領の任期の開始日と終了日とする法律を制定した（レオナード・Ｗ・レビ氏ほか編「アメリカ大統領百科事典」（1994年、サイモン・アンド・シャスター社発行）第4巻P.1454）。この法律は、1792年3月1日に承認された「合衆国大統領および副大統領の選挙に関する法律、並びに、大統領および副大統領の両職に欠員が生じた場合に大統領の職務を遂行するよく員を宣言する法律」で、その第12条で「大統領および副大統領が選出される4年の任期は、いかなる場合においても、選挙人が投票を行った日の後に来る次の３月4日に開始するものとする」とされた（法令全集第1巻PP.239-241）。
ただし、その時刻までは決められていなかった。
これを受け、ワシントンは、大統領施政第２期を1793年３月４日から開始するべく同日就任式を行った。爾後、歴代正副大統領は３月４日に就任式を行うこととしたが、慣例として、３月４日のおおむね「正午」に就任宣誓を行い、その職務を開始した。
最終的に、大統領および副大統領の任期の開始・終了の期日は、新大統領は当選から期間を空けず、より早期に就任するべきとの理由から、それまで法律で規定されていた3月4日から、1933年に確定した憲法修正第20条により「正副大統領の任期は1月20日正午に終了するものとする」と変更され、現在に至っている。
［参考①］大統領職が半日も空席？
大統領の任期開始日を3月4日とした一方、連邦議会議員名簿the Congressional Directoryを始め一部の文献や解釈において、大統領の任期終了日を前日の3月3日とするものがある。この見解によれば、3月4日正午に新大統領が就任宣誓を行うまでの、少なくとも同日の午前中は大統領職は空席となるとの疑義は生じないのだろうか？また、任期開始日を3月4日としたが時間までの定めはなかったので、第2代アダムズのように3月4日午前4時に首都を出発した事例もあれば、第17代ジョンソンのように3月4日の正午までホワイトハウスで執務を行った事例もある。こうした実例をみると、退任大統領自身、３月４日の新大統領就任時点まで仕事を続行するか否かは、退任大統領の考え次第ということができるだろう。結果として、退任大統領が新大統領の就任宣誓が行われるまで職務を遂行しなかったことでその責任を問われ、厳格な歴史の審判を受けた大統領は一人もいない。
［参考②］大統領職が２日半も空席？
現職大統領の任期中の死亡に伴い副大統領から昇格した後任大統領の任期開始日を、前者が死亡した日（時点）ではなく、後者が就任宣誓を行った日（時点）とする解釈などがある。連邦議会議員名簿the Congressional Directoryなどはその立場を採っている。これによると両方の期日ないし時点の間に大統領職が空席となるといった実務上深刻な疑義が生じる。実際、次項の第9代ハリソンの事例では、ほぼ2日半の空席が生じていたことになる。職務遂行前の就任宣誓は形式的要件であり、それに拘泥し大統領職の空白を生じさせるといった行政解釈や運用はいかなる時代にも通用しないだろう。而して、世界規模での政治的危機を経験したアメリカでは、特に1963年に起こった第35代ケネディ暗殺と直後のジョンソン副大統領の昇格という事態に至ると、大統領空白の時間について、にわかに問題視されるようになり、大統領が一時的に職務遂行不可能な事態に陥った場合の規定を定めた修正憲法第25条を連邦議会が1967年に確定させることとなった。したがって、現憲法下では、平時は新旧大統領の交代時点は1月20日正午であり、大統領の死亡など突然の事態では、1841年当時第10代タイラーが主張したように、その原因が生じた時点が新大統領（あるいは大統領代理）の任期開始期日・時間と解釈し運用されるのが妥当であろう。
上は、第118議会（2023-2024年）の連邦議会議員名簿the Congressional Directoryの当該ページ。第10代タイラーの職務開始時期を「1841年4月6日」としていることや従前の大統領退任期日を「3月3日」としているのがわかる。
◆第９代ハリソンから第10代タイラーへの大統領職の継承 ページトップに戻る
①事の発端
第9代ハリソンは1841年4月4日日曜日、ホワイトハウスで死去した。その報を受け、急ぎ郷里のバージニア州から首都ワシントンに駆け付けた第10代タイラーは、4月6日火曜日、大統領の就任宣誓を行った。ノーマ・ピーターソン氏著「ウィリアム・ヘンリー・ハリソンとジョン・タイラーの大統領時代」（1989年、カンザス州立大学出版会）によると、「ルース・C・シルバは1951年の著書『大統領職の継承』の中で、意見の相違はあるものの、タイラーの継承によって確立された先例は時の試練に耐え、同様の状況が発生した際に秩序ある大統領職の移行を規定してきたと結論付けている。しかしながら、こうした大統領職の移行はすべて『憲法上の規定ではなく慣習によって』行われた。これは1967年まで当てはまっていた。この年、憲法修正第25条が継承に関するその他の規定に加え、『大統領が解任された場合または大統領が死亡、もしくは、辞任した場合、副大統領が大統領となる』と規定したのである。タイラーの大統領就任により確立されたもう一つの前例は、大統領としての宣誓を行うこと及び大統領任期開始時期が、現職大統領の死亡した時点から始まるというタイラーの主張が退けられ、大統領宣誓の時点から始まるというものであった。そのため、連邦議会議員名簿the Congressional Directoryは、タイラーの大統領職の開始を４月４日ではなく４月６日と記録している」と解説している（同書P.49）。この見解によれば、以下②のとおり、ハリソンの死去からほぼ２日半にわたり、大統領職は空席だったことになる。
②この事例の時系列
1841年４月４日午前0時30分、ハリソンは、肺炎によりホワイトハウスで死去した。
４月５日午前５時、ハリソン死去の報は、バージニア州の自宅に滞在中だった副大統領タイラーの元に届けられた。
4月5日午前7時、タイラーは、首都ワシントンに向け出発した。
4月6日午前4時、タイラーは、首都ワシントンに到着した。
4月6日正午、タイラーは、首都ワシントンのブラウンズ「インディアン・クィーン」ホテルの応接室で大統領就任の宣誓を行った。この就任宣誓を執り行ったのは首都巡回裁判所のウィリアム・クランチ長官だった。
４月7日、ハリソンの葬儀が営まれた。
４月９日、タイラーは、就任演説を行った。
４月14日、タイラーは、ホワイトハウスに移り住んだ。
③タイラーは大統領か？大統領代理か？
タイラー本人は、ハリソン大統領が亡くなった時点で、自分が大統領の地位と職務を引き継ぐと考えていた。しかし、おそらくタイラーは憲法起草者たちの考えを誤解していた。したがって、タイラーは、大統領就任の宣誓すら必要ないと考えていた。タイラーは副大統領として憲法を擁護する旨、宣誓したことで十分だとも考えていた。国務長官ウエブスターは、タイラーが大統領代理ではなく、大統領となるとの立場を採ったが、形式が必要と考え、タイラーに宣誓を行うよう要請した。タイラーは、ウエブスターの要請を受け入れ、４月６日正午、新たに大統領就任の宣誓を行った。一方、近年の研究で明らかになったが、憲法起草者たちの意図は、大統領が死亡したとき副大統領は大統領の地位そのものは引き継がず、別途行われる特別選挙で新しい大統領が選ばれるまで職務のみを引継ぐというものであったようだ。とは言え、この考えは憲法に明記されなかった。元大統領の第６代アダムズを含む多くの人々は、タイラーは大統領代理だと考えた。タイラーは、これに対抗すべく「大統領代理」と宛名された手紙は開封せずに返送した。1841年5月31日に召集された連邦特別議会は、翌６月１日、まず下院が、続いて上院が、タイラーを正式に大統領とする決議を可決した。歴史学者でケネディ政権の特別補佐官だったアーサー・シュレジンガー教授はその著書「アメリカ史のサイクル」（猿谷要先生監修・高村宏子氏訳。1988年、パーソナルメディア社発行）の中で、タイラーのこの行動を「合法的な政変」と呼んだ。そして「この主張が明らかに合憲と認められるようになったのは、125年後に修正第25条ができたときであった。」と結んでいる（同書P.190）。
なお、1850年、史上2回目の現職大統領の死亡という事態に直面した副大統領フィルモアは、タイラーの先例のおかげで、紛議なく第13代大統領に昇格している。
【出典】レオナード・Ｗ・レビ氏ほか編「アメリカ大統領百科事典」（1994年、サイモン・アンド・シャスター社発行）第4巻P.1519。アメリカン・ヘリテッジ社編「大統領図説」（1968年発行）第１巻PP.275-276。エドワード・クラポル著「ジョン・タイラー 偶然大統領」（2006年、ノースカロライナ大学出版会）PP.8-13。
④［記事］としてこのページの最下段に「大統領職継承の権威による初期事案に係る詳しい解説」（ルース・C・シルバ教授著「大統領職の継承」（1951年、グリーウッド・プレス社発行）PP.14-25 ）を掲げた。
◆その他の交代・継承の事例 ページトップに戻る
①1849年3月の事例。
第11代ポークは1849年3月３日土曜日に任期を終えた一方、第12代テーラーは1849年３月4日が日曜日に当たっていたため、翌３月５日月曜日に就任宣誓を行った、とする見解がある。この見解を根拠として、両大統領が不在となった３月４日には、上院議長代行のデイビッド・R・アチソン【1807年生・1886年没。ミズーリ州選出上院議員】が「１日大統領」だった、との主張が根強く展開されている。ポークは、３月４日早朝には自分の大統領としての任務が終了したと認識していた。ポーク政権のダラス副大統領は上院議長を３月２日に辞職し、同日アチソンが上院議長代行に選出された。フィルモア次期副大統領も未就任だった。このような状況からアチソンの「１日大統領」説が生まれた。アチソンは当日寝て過ごしたと言った。この主張は、就任宣誓を実施するまではテーラーが大統領でないことを前提になされていることは明らかである。ただ、アチソンも同様に、大統領として就任宣誓を行っていないので先の主張は矛盾を抱えている。
［参考］連邦上院のホームページ 歴代上院臨時議長一覧
②1877年3月の事例。
■大統領当選者ヘイズは1877年3月2日金曜日の午前中、首都ワシントンに到着した。グラントの任期は、3月4日正午に正式に終了する予定だったが、その日が日曜日だったことから、新大統領の就任式は翌5日に設定された。グラントはヘイズを説得し、ヘイズは、3月3日土曜日夜にホワイトハウスで催される夕食会の前に、非公式に就任宣誓を行った。3月5日月曜日、グラントは後任のヘイズを連邦議事堂東側正面まで案内し、ヘイズは3万人の群衆の前で再び宣誓を行った。1876年の大統領選挙を巡る政治危機が平和裏に解決したことに、退任する大統領自身ほど安堵した者はいなかっただろう。
【出典】チャールズ・W・カルフーン氏著「ユリシーズ・S・グラントの大統領時代」（2017年、カンザス大学出版会）P.564。
■1877年3月14日のヘイズの日記「3月1日木曜日の正午過ぎ、我々は特別車両でコロンバスを出発し、ワシントンへ向かった……前夜、【オハイオ】州議事堂でコロンバス市民による歓迎会が開かれた。大勢の人々が駅まで我々を追従した。我々は士官候補生に付き添われていた。私は短い演説を行い、好評を博した。ニューアーク、デニソン、スチューベンビルなどでも大勢の人々が我々を出迎えた。その熱狂ぶりは、私がこれまでオハイオ州で目にしたことのないほどだった。ハリスバーグ近郊のメアリーズビル（？）で、両院が最後の州の開票を終え、私が【大統領に】当選したという知らせを聞いて、我々は目を覚ました！【3月2日金曜日】午前9時半頃、首都ワシントンに到着した。シャーマン上院議員が駅で我々を出迎え、シャーマン上院議員の自宅まで直行した。朝食後、シャーマン上院議員と共にグラント大統領を訪問した。ホワイトハウスでの晩餐会の前に、（4日）日曜日の正午から月曜日の就任式までの【大統領】空位期間を回避するため、最高裁判所長官から宣誓を受けることになった。これは【ハミルトン・】フィッシュ【国務】長官と大統領の助言であった。私は全面的に賛成したわけではなかったが、同意した。その後、シャーマン上院議員と共に連邦議事堂に向かった……私は副大統領室に入り、多くの上院議員と下院議員を紹介された……。土曜日と日曜日に、上院議員、下院議員、その他関係者と面会し、内閣について多くの提案を受けた……」。
【出典】チャールズ・R・ウィリアムズ氏編「ラザフォード・バーチャード・ヘイズの日記と書簡集」（1924年、オハイオ州立考古歴史協会発行）第3巻PP.425-426。
③1881年9月の事例。
第20代ガーフィールドは、1881年9月19日に死去した（於ニュージャージー州エルバロン。ガーフィールドは1881年7月2日首都ワシントンで狙撃された）。副大統領アーサーは、ガーフィールドの死去を受け、翌9月20日（於ニューヨークの自宅）に就任宣誓を行った。この就任宣誓はニューヨーク州最高裁判所ジョン・ブレイディ判事が執り行った。アーサーは9月21日、弔意を表すため、閣僚とともにエルバロンに赴き、同日午後には首都ワシントンに向け出発した。アーサーは9月22日、連邦議事堂の副大統領執務室で２回目の就任宣誓を行った。今回はウエイト最高裁判所長官が就任宣誓を執り行った。アーサーは、宣誓後に短い就任演説を行った。その後、閣議を開き、国民が故ガーフィールド大統領に対し喪に服する日に関する宣言に署名し、同年10月1日に上院の特別会期を召集する旨合意した。大方の文献は、アーサーの大統領任期開始期日として9月20日を採用している。より格式の高い就任宣誓を行った期日である9月22日は、補完的なものと解釈しているのか、採用していない。
④1923年8月の事例。
第29代ハーディングは、1923年8月２日午後７時３５分（於カリフォルニア州サンフランシスコ）に死去した。副大統領クーリッジは、ハーディングの死去を受け、1923年年８月３日午前２時47分（於マサチュセッツ州プリマスの自宅）で就任宣誓を行った。クーリッジは、公証人である自身の実父から受けたこの就任宣誓の効力について、ドーハティ司法長官から疑問を呈されたことから、1923年8月21日に首都最高裁判所のアドルフ・ホーリング判事により２回目の就任宣誓を行った。いずれの就任宣誓が正式・公式なものと認めるかにより、クーリッジの任期開始期日が８月３日なのか、８月21日なのか、解釈が分かれるところ、大方の文献は疑いもなくクーリッジの大統領任期開始期日を８月３日としている。
◆交代期日が日曜日に当たっているが同一大統領の職務継続である事例
再選された同一大統領は、任期が継続しているので問題とならないようではある。①②の古い事例を除くと、厳格な時代を迎えた③④⑤の事例では、無用な疑義を生じさせないよう、より丁寧・念入りに日曜日に非公式・私的な就任宣誓を行った。
①第５代モンロー第１期終期＝1821年３月３日土曜日
第５代モンロー第２期始期＝1821年３月５日月曜日
②第28代ウィルソン第１期終期＝1917年３月３日土曜日
第28代ウィルソン第２期始期＝1917年３月５日月曜日
③第34代アイゼンハワー第１期終期＝1957年１月20日日曜日正午
第34代アイゼンハワー第２期始期＝1957年１月20日日曜日正午＝非公式・私的就任式。
1957年1月21日月曜日＝公式就任式。
④第40代レーガン第１期終期＝1985年１月20日日曜日正午
第40代レーガン第２期始期＝1985年１月20日日曜日正午＝非公式・私的就任式。
1985年１月21日月曜日＝公式就任式。
⑤第44代オバマ第１期終期＝2013年１月20日日曜日正午
第44代オバマ第２期始期＝2013年１月20日日曜日正午＝非公式・私的就任式。
2013年１月21日月曜日＝公式就任式。
◆大統領への昇格と大統領代理
大統領に「昇格」できるのは副大統領「のみ」である。これは、修正憲法第25条第１節に明確に記載されている。つまり、大統領に不測の事態（死亡、免職、辞任）が生じた場合には、副大統領が大統領になる（to become President）のである。たとえば、フォード大統領の場合をみてみよう。ニクソン大統領の下で副大統領であったアグニューの辞任により、フォード共和党下院院内総務が副大統領に指名され、承認（上下両院）された。その後、ニクソン大統領の辞任により、フォード大統領が憲法の規定により大統領に就任したわけである。副大統領のポストにある者のみが、大統領に昇格できるのである。ちなみにこのときには、副大統領にネルソン・ロクフェラー（前ニューヨーク州知事）が指名、承認された。大統領、副大統領とも選挙の洗礼を受けていないきわめて異例のケースであった。
なお、大統領が重病等により職務遂行不能となった場合には、副大統領が大統領代理 / 大統領代行（Acting President）をつとめる（修正憲法25条第３節）が、当該辞退（重病等）が回復すれば、大統領が職務に復帰する。
【大統領代理 / 大統領代行の実例】 論文はこちら
・第40代レーガン［大腸内視鏡検査のため麻酔］→ブッシュ副大統領：1985年7月13日 11:28-19:22。
・第41代ブッシュ［大腸内視鏡検査のため麻酔］→チェイニー副大統領：2002年6月29日 07:09-09:24。
・第41代ブッシュ［大腸内視鏡検査のため麻酔］→チェイニー副大統領：2007年7月21日 07:09-09:21。
・第46代バイデン［大腸内視鏡検査のため麻酔］→ハリス副大統領：2021年11月19日 85分間。
◆大統領職務代行権の順位
さて、大統領代理を行っている副大統領が、重病等におちいり職務遂行不能となった場合はどうだろう。万一、大統領および副大統領がほぼ同一時期に欠けた場合……たとえば、Ａ大統領の下でＢ副大統領が辞任し、いまだ副大統領の後任が決まらないうちにＡ大統領の不測の事態（死亡等）が起こり、Ａ、Ｂともに欠けてしまった場合……を考慮し、米国法典第３編第19条は、次のとおり定めている。つまり、このような事態が起こった場合は、①下院議長、②上院議長代行、③国務長官、④財務長官、⑤国防長官、⑥その他の各省長官の順位により、大統領職務代行（to act as President）を行うのである。この大統領職務代行者は、残りの任期のすべての期間を代行する。ただし、これはあくまでも職務代行であって、大統領に昇格するケースとは異なる。
さて、ここに一つの問題が存在する。職務代行者が野党である場合である。現在のオニール下院議長は民主党であるので、【共和党政権の】大統領、副大統領がともに欠けるという事態が起こった場合、選挙を行うことなく、代行とはいっても野党民主党政権になってしまうわけである。アグニュー副大統領（共和党）辞任の際に、当時のアルバート下院議長（民主党）は、何らかの緊急事態がおきて、自分が大統領職を執行することになるのは、政治的混乱をまねくことになるので、早急に副大統領の後任をきめるようニクソン大統領に申し入れた経緯がある。事実、このときは、アグニュー辞任（1973年10月10日）、フォード副大統領指名（10月12日）、上院本会議承認（11月27日）、下院本会議承認（12月6日）、同日正式に副大統領就任と運んだがわけであるが、前任者の辞任から後任者の就任まで、約２か月を要したわけであり、この２か月間に大統領の身に何かが起こらないとはいいきれなかったのである。
なお、大統領は全軍の最高司令官であるが（憲法第２条）、不測の事態により大統領が欠けた場合の軍事的空白をさけるため、国防長官が憲法上の大統領の権限を授権執行しうるよう規定されている（国家安全保障報及び国防省再組織法）。作戦命令は国防長官あるいは国防長官の許可にもとづき統合参謀本部が発出し、それ以外の命令（兵站、訓練等）は国防長官から各軍の長官へ伝達されるのである。
【出典】外務省監修「アメリカの読み方 知られざる大国、一問一答」（1987年、講談社発行）PP.20-24。 ページトップに戻る
［記事］大統領職継承の権威による初期事案に係る詳しい解説
【出典】ルース・C・シルバ教授著「大統領職の継承」（1951年、グリーウッド・プレス社発行）PP.14-25。
《第2章 大統領職の空白》
《A. 大統領職継承の先例》
これまで7人の大統領が在任中に亡くなっている【第9代ハリソン、第12代テーラー、第16代リンカン、第19代ガーフィールド、第25代マッキンリー、第29代ハーディング、第32代ローズベルトの各大統領】。このすべての機会において、副大統領は大統領としての宣誓を行った。そして、より重要なことは、この7人の副大統領は全員、ほぼ例外なく合衆国大統領であることが認知されている。この先例は、ハリソンとタイラーの事例であった。
1841年4月4日、第9代ウィリアム・ヘンリー・ハリソン大統領が亡くなった。史上初めて、大統領職が空席となった。その後、憲法に従って、ジョン・タイラー副大統領がハリソンの任期の残り3年と11か月の間、大統領となることが決定された。この決定を下した人物が実際誰であったかは不明である。伝説によると、前例が確立されたのは、タイラーが大統領の地位を主張したからに過ぎない。伝説は、閣僚がタイラー氏を公式に「合衆国副大統領、大統領代理」と称することを決定したことから始まった。しかし、タイラーは、自分が相続で引き継いだ職務の威厳と名誉の全てを享受することを即座に決断したと考えられている（注1：ベン・パーリー・プーア著「パーリーが語る国都における60年の回想録」（1886年）第1巻P.269【ベンジャミン・パーリー・プーア。1820年生・1887年没。著名な新聞記者・編集者・作家】）。
この伝説の念入りなところは、タイラーは「大統領ジョン・タイラー」と署名した教書を議会に厚かましくも送付したというものである。教書が届いたとき、議会はタイラーの地位について議論していたが、どうやら議論は直に終わったようで、問題は永久に決着を見た（注2：A・K・マクラール著「歴代大統領と選出方法」（1902年）P.74）。さらに仔細な話では、憲法の権威にも列せられるダニエル・ウエブスターは、タイラーが大統領職を引き継いだことは憲法違反であると明言した。ウエブスターは、適切な署名を得るために当該教書を返送するべきだと提案した、と話は続く。ウエブスターは、おそらく、その動議を提出しなかった。なぜなら、タイラーとウエブスターは同じ政党に属していたからであった。タイラーの不興を買うことを気にする者は他にいなかったため、問題は取下げられた（注3：レスリー・M・ショーからニコラス・マーレー・バトラー宛て公開書簡。1927年2月9日付けニューヨーク・タイムズ紙）。
一つだけ確かなことは、ウエブスターは、タイラーが彼の最初の教書を議会に送った1841年6月1日、議場でそのような大胆な発言をしていないということである。ウエブスターは当時議会議員ですらなかった。そうではなく、彼は国務長官であり、1843年5月8日までその職にあった。第27議会開催前の8週間、タイラーは公文書に「合衆国大統領ジョン・タイラー」と署名していた。さらに、議会両院は、タイラーの最初の教書を受領する前に、その問題をすでに解決していた。
伝説とは反対に、タイラーは大統領であると決定したのはウエブスターその人だったようだ。ウエブスターが最初にこの問題全体に注意を向けたのは、彼がハリソン大統領の病気のためにワシントンに呼び出されたときだった（注4：1841年4月1日・3日付けナショナル・インテリジェンサー紙。1841年4月1日付けニューヨーク・エクスプレス紙。1841年4月3日付けナイルズ・ナショナル・レジスター紙）。ワシントンに到着すると、彼は、医師団からハリソン大統領は回復すると考えている旨告げられた。しかし、大統領を見舞った後、彼は大統領の病気が致命的であると確信した。その結果、彼は、郷里のバージニア州に滞在中だったタイラー副大統領に病気とその起こり得る結果を知らせるよう強く求めた。
当時、ワシントンの当局者は、大統領は回復するものと楽観視しており、大統領の病気が本当に深刻であることを理解していたのはウエブスターただ一人だったようだ（注5：1841年4月10日付けボストン・デイリー・アドバタイザー・アンド・パトライオット紙）。しかし、大統領が回復したとしても、療養期間は長引くだろうし、すでに公務は就任後1か月の間ほとんど停止されていたため、何らかの措置が必要と思われた（注6：1841年4月1日付けニューヨーク・エクスプレス紙）。そのため、当時首都ワシントンにいた5名の閣僚（注7：ウエブスター国務長官、ユーイング財務長官、ベル陸軍長官、クリッテンデン司法長官、グレンジャー郵政長官の5人。バジャー海軍長官は首都を不在にしていた）は大統領の職務不能の問題について議論したが、この議論の記録は残っていない。しかし、ウエブスター長官は、副大統領が一時的に大統領の権限を行使することはできないと考えていたようだ。彼は、タイラーを大統領代行とする状況に至った場合には、ハリソン大統領が回復するか否かにかかわらず、残りの任期中、自分が大統領であると考えていたようだ（注8：ハリソン・タイラー内閣の財務長官の孫であるトマス・ユーイング三世【1862年生・1942年没。合衆国特許庁長官＝1913-1917年】は、ニューヨーク・タイムズ紙に宛てた書簡（1921年12月10日付け）で書いている。「ウエブスター氏は次のような意見を表明した。たとえ、大統領が職務不能の期間から回復し、自身の任期中に職責を果たせるようになっても、彼は、彼の職務を引き継いだ副大統領を解任することができない」。続けて、第28代ウィルソン大統領の病気について触れ、ユーイング弁護士は言った。「この意見が正しいなら、大統領を一時的にも解任することなどできない。勿論、万一、大統領が死亡しておらず、単に職務不能になった場合、この措置の重大性は増すことになる」。この書簡を書いた当時、ユーイングは、祖父の文書を収納箱等に70個分以上持っていた。議会図書館は1946年11月以降この文書を所蔵しているが、分類も索引付けもされておらず、研究目的で利用できるようにもなっていない。ユーイングがタイムズ紙に送った書簡の根拠が、この文書に含まれているか否かは不明である。しかし、ユーイング家の往復書簡を見ると、彼はその文書に精通していたと認められる）。何らかの措置が講じられる前に、大統領の職務不能の問題は空白の問題となった。
5名の閣僚は連名で大統領の死去を国民に向け発表し（注9：ジェームズ・D・リチャードソン「歴代大統領の教書と公文書」（1897年発行）第4巻P.22）、「合衆国副大統領ジョン・タイラー」に宛てた通知をフレッチャー・ウエブスター【1813年生・1862年没。ウエブスター長官の長男】に持参させた（注10：前掲書PP.22-23。タイラー大統領の子息リオン・タイラーによれば、内閣の通知が「副大統領」として彼の父親に発せられたのは単に偶然の出来事だった。子息タイラーは、合衆国憲法の継承関係の文言「それthe Same」は「同職Office」を指し、単に同職の権限と義務its powers and dutiesを意味するのではないとしたのは確固とした考えに基づくものだと主張する。リオン・タイラー「タイラー家の書簡と時代」（1885年発行）第2巻P.12）。タイラーは、直ちにワシントンに戻り、閣僚と面談し、ブラウンズ・インディアン・クイーン・ホテルに投宿した。コロンビア特別区巡回裁判所首席判事ウィリアム・クランチ判事が招聘され、副大統領に対し大統領としての宣誓を執り行った。このように、ハリソン大統領の死から53時間後に、タイラーは第10代合衆国大統領としての宣誓を行った（注11：トマス・ハート・ベントン「30年の考察」（1856年発行）第2巻P.211。オリバー・P・チトウッド「ジョン・タイラー 旧南部の擁護者」（1939年発行）PP.202-206）。大統領になるに当たり必要とされている宣誓をタイラーが行うと決定したのは閣僚の誰なのか正確には分かっていない（注12：この決定はタイラーと海軍長官を除く全閣僚が出席した閣議でなされたと思われる。ジョージ・ティクナー・カーティス「ダニエル・ウエブスターの生涯」（1870年発行）第2巻P,67の注。タイラー、ウエブスター、ユーイング、ベル、クリッテンデン、グランガーの出版された文書には本件の言及は一切ない。議会図書館の参考資料部職員エリザベス・マクファーソン博士は、フランシス及びギデオン・グランガー、ダニエル・ウエブスター、ジョン・C・クリッテンデン、並びにトマス・ユーイングの所蔵文書を可能な限り調査した。彼女は、大統領継承に係る言及を一切見つけることはできなかった。調査されたユーイングの文書は、6冊の書簡集、2,000通の綴じられていない手紙、ハリソン・タイラー内閣でのユーイングの在任期間を網羅した65頁の日記で構成されていた。デューク大学図書館には、調査されたクリッテンデン文書のコレクションがある。しかし、その調査は徒労に終わった）。ダニエル・ウエブスターは合衆国最高裁判所首席書記官であるウィリアム・T・キャロルに対し、この問題を協議するためワシントンに来るよう【郷里のメリーランド州ボルティモアに帰省中だった】トーニー最高裁判所長官に依頼する手紙を書くように要請した。しかし、トーニーは、内閣乃至副大統領からの正式な要請なしに自分を呼び出すというのは自身にとって非礼であるとしてキャロルの依頼を断った。同じ理由からトーニーは、2回目の宣誓【副大統領の宣誓のほかに大統領の宣誓を行うこと】の妥当性に関して判断を下すことを断った（注13：サミュエル・タイラー「ロジャー・ブルック・トーニーの回想」（1872年発行）PP.295-296。この点に関しトーニーは【1841年4月6日付けの書簡で】こう記している。「政府行政部門と司法部門の連絡において、その公的地位が関わり合う場合はいつでも、一方から他方への意思疎通は直接に、かつ、適切な原局からでなければならない」。彼は続けて､政府の対等部門の業務に自分が介入していると思われないよう慎重でありたいと述べた）。誰がクランチ判事を招聘したのか記録は残っていないが、これだけは分かっている。タイラーは2回目の宣誓は必要ないと考えていた（注14：リチャードソン前掲書第4巻PP.31-32。認証の本文は次のとおり。「私、コロンビア特別区巡回裁判所首席判事ウィリアム・クランチは、上記のジョン・タイラー本人が本日、私の面前に出頭し、故ウィリアム・ヘンリー・ハリソン合衆国大統領の死去に伴い、副大統領として行った宣誓以外の宣誓をすることなく、大統領の職務を遂行し、権限を行使する資格があると自認しているが、疑義が生じる可能性があるため、かつ、より慎重を期すため、私の面前で前述の宣誓を行ったことを証する。1841年4月6日。W・クランチ」）。リオン・タイラーは、彼の父親は、ハリソンが亡くなったまさにその瞬間に大統領になったと思ったので、それは必要ないと考えていたと述べている（注15：リオン・タイラー前掲書第2巻P.12）。他方、ハーバート・W・ホーウィル教授の見解によれば、大統領の宣誓は必須ではないとのタイラーの確信は、タイラーは、自分が実際に大統領になったのではく、同職の機能を単に行使するだけだと考えていたことを暗示している（注16：この点についてホーウィルは次のよう述べている。「副大統領として行った宣誓は実際に補足する必要がないというタイラーの確信は、この事案全体の最も特異な特徴の一つである。なぜなら、それが彼の主張のすべてを示しているからだ。彼が大統領代行になったに過ぎないとしたら、副大統領の職務を忠実に遂行するという従前行った宣誓は……大統領が万一死亡した場合に大統領の職務を代行することであるため…その職務の規定された義務の一つとして、全ての範囲をカバーすることになる。しかし他方、彼がずっと主張していたように、彼の副大統領時代は今や終わりを迎え、大統領職に選出された人物と同程度に完全に同職を掌握したとしたら、彼が新しい威厳を引き受けるには、すべての新大統領に課せられた宣誓をしなければならないに違いない」ハーバート・W・ホーウィル「アメリカ憲法の慣習」（1925年）PP.70-71）。
タイラーの理由が何であれ、影響力のある誰かが2回目の宣誓が重要だと考えたに違いない。なぜなら、タイラーはそれを行ったからだ。ウエブスターの伝記作家ジョージ・ティクナー・カーティスは、副大統領は大統領の宣誓をすべきであり、憲法は権限と権威においてのみならず名称と称号においても彼が大統領になることを意図していると決めたのはウエブスターのおかげだとしている（注17：カーティス前掲書（本書注12）第2巻P.67注。ランバートも、この決定を下したウエブスターの功績を認めているが、彼が引用する唯一の権威はカーティスである。オスカー・D・ランバート「合衆国における大統領政治1841-1845年」（1936年発行）P.5）。ウエブスターがこれを決定したと結論付けるのは合理的である。なぜなら、彼は内閣の筆頭閣僚だったからである。ウエブスターがこの決定をしたか否かを別にしても、少なくとも、彼と他の閣僚たちはタイラーを簒奪者とは考えていなかった。その証拠として、以下の事実が挙げられる。第1。ダニエル・ウエブスター、トマス・ユーイング、ジョン・ベル、ジョン・J・クリッテンデンおよびフランシス・グレンジャー【首都ワシントンを不在にしていた海軍長官を除く】は全員、宣誓が執り行われたとき同席していたこと（注18：リチャードソン前掲書第4巻P.31）。第2。ウエブスター文書を調べると、彼が閣僚を辞任したのは、タイラーの大統領就任に反対したのではなく、タイラーの銀行政策が理由であったこと（注19：「ダニエル・ウエブスターの著作と演説集」（1903年発行）第3巻P.121,137,PP.184-185。第15巻P.185。第16巻PP.357-358,PP.406-408。第18巻P.110,P.117,P.149）。第3。第12代テーラー大統領の死去に伴うフィルモア副大統領の大統領宣誓執行に議会が立ち会うために合同会議を召集する1850年7月10日の決議案を提出したのがダニエル・ウエブスターであったこと。同決議案ではフィルモアを「前副大統領」と称しているが、この表現法からして、ウエブスターはフィルモアが大統領としての宣誓を済ませていないにもかかわらず、フィルモアはすでに大統領であると考えていたことを示しているようだ。決議案はしかし、ウエブスターは、大統領はその権限行使に先立って宣誓を行うことが必要と考えていたことも示している（注20：上院日誌、第31議会第1会期P.444）。第4。ウエブスターとクリッテンッデンは二人ともフィルモア内閣の閣僚を務めていたこと。それは、彼らがフィルモアを簒奪者とみなしていたなら決してそうしなかっただろうということ（注21：W・L・バール「ミラード・フィルモアの生涯」（1856年発行）P.321。無署名「ミラード・フィルモア伝」（1856年発行）P.129）。この証拠は、ウエブスターと他の閣僚はタイラーの継承が無効だと考えていたという伝説を間違いなく否定している。
当時の新聞は、全てがジョン・タイラーを大統領とみなしていたわけではない。ホイッグ党の新聞ハリスバーグ・インテリジェンサー紙は、タイラー副大統領が職権で大統領の職務を執行すると読者に伝えた。バージニア州の有力民主党系新聞リッチモンド・エンクワイアラー紙は、タイラーは「大統領代行」に過ぎないと述べた。別の民主党系新聞ニューヨーク・ポスト紙は、タイラーは大統領職の全権限を有しているが、その称号は継承しないと報じた（注22：1841年4月12日付けデイリー・ナショナル・アドバタイザー紙が転載したハリスバーグ・インテリジェンサー紙。1841年4月2日付けナイルズ・ナショナル・レジスター紙が転載したニューヨーク・イブニング・ポスト紙）。ボストンの2大主要新聞は、一方はホイッグ党系、他方は民主党系だったが両紙とも、ジョン・タイラーの大統領継承後何か月もの間、彼を「副大統領」あるいは「大統領代行」と呼び続けた（注23：たとえば、1841年6月1日付けのボストン・デイリー・アドバタイザー紙（ホイッグ党系）。1841年6月4日付け・11日付けのボストン・モーニング・ポスト紙）。
タイラーの地位の問題について対局の立場をとった新聞もいくつかあった。ハリソンの死の知らせがノースカロライナに届く前に、ホイッグ党新聞のローリー・レジスター紙は、ハリソンが亡くなれば、タイラーが大統領の死の瞬間に大統領となり、ハリソンの任期の残りの間、大統領であり続けるだろうと報じた（注24：1841年4月5日付け）。ハリソンの死後、民主党ペンシルベニアン紙は読者に、タイラーは「憲法に従って」大統領になったと伝えた（注25：1841年4月8日付けワシントン・グローブ紙が転載）。同じく民主党機関紙であるワシントン・グローブ紙は、「ジョン・タイラー、現在の合衆国大統領」について語った（注26：1841年4月8日付けワシントン・グローブ紙）。ホイッグ党のボストン・クーリエ紙は、大統領職はジョン・タイラーに移譲され、彼は名実ともに大統領になったが、それは彼が選挙で選ばれたのと全く同じだと報じた（注27：1841年4月7日付け）。
タイラーの称号の問題に関して新聞がどのような立場を採ったとしても、その新聞は彼に大統領宣誓をさせることに反対はしなかった。彼が実際に宣誓する前から、ペンシルベニアン紙は、大統領の職務に就く前に宣誓をすべきだと述べた（注28：1841年4月10日付けナイルズ・ナショナル・レジスター紙から引用）。ボストン・クーリエ紙は読書に対し、副大統領としてのタイラーの宣誓は不十分であり、トーニー最高裁判所長官が間違いなくタイラーに追加の宣誓をさせるだろうと説明した（注29：1841年4月8日付け）。ボストン・デイリー・アドバタイザー紙によると、ハリソンの任期の残り期間中はタイラーがすべての権限を持つことになるが、宣誓によってタイラーが大統領になることはない。アドバタイザー紙は、憲法が第二の宣誓について明確ではないと認めたが、副大統領に委ねられた義務の一つは宣誓を行うことだと思われた。アドバタイザー紙はいずれにせよ、この措置を支持した。なぜなら、これによってタイラーの大統領としての諸活動の合法性に与するすべての疑問が解決されるからである（注30：1841年4月10日付け）。
主要新聞のいずれもが特別選挙を求めるべきだと提唱しなかったことは重要である。ニューヨークの二つのホイッグ党系新聞、アメリカン紙とクーリエ・アンド・エンクワイアラー紙は読者に、タイラーがハリソンの任期を全うすると伝えた（注31：1841音4月5日付けニューヨーク・アメリカン紙。1841年4月6日付けニューヨーク・クーリエ・アンド・エンクワイアラー紙）。ニュー・ブランズウイック・フリードニアン紙も同様に、タイラーは、3年と11か月の間、大統領を務めると述べた（注32：1841年4月7日付け）。タイラーを「副大統領」と呼ぶことにこだわったボストン・デイリー・アドバタイザー紙でさえ、大統領職の義務と責任が1845年3月4日まで彼のものであることを認めた（注33：1841年4月7日付け）。タイラーが大統領宣誓を行った後、民主党機関紙のワシントン・グローブ紙は、タイラーがハリソンの任期を全うするだろうと断言し（注34：1841年4月8日付け）、アメリカン・センチネル紙もこの意見に同意した（注35：1841年4月10日付けナイルズ・ナショナル・レジスターが転載）。ユナイテッド・ステーツ・ガゼット紙とペンシルバニアン紙は、それぞれ、フィラデルフィアの有力なホイッグ党と民主党の新聞であるが、タイラーが任期を全うすると述べただけではなく、憲法ではこの場合、特別選挙の実施は意図されていないと説明した。これらの新聞は、大統領の権限と義務が議会によって任命された高官に移譲される場合にのみ、特別選挙が実施されることになると述べた（注36：1841年4月5日付けユナイテッド・ステーツ・ガゼット紙。1841年4月10日付けナイルズ・ナショナル・レジスターが転載したペンシルバニアン紙）。
ホイッグ党の主要な代弁者ナショナル・インテリジェンサー紙は、この問題を取り上げていた唯一の新聞だった。4月4日、5日、6日、同紙は「タイラー副大統領」について語った。しかし、インテリジェンサー紙は、彼が大統領の宣誓をするとすぐに「タイラー大統領」と呼んだ。4月15日、編集者は、タイラーを「副大統領」または「大統領代行」と呼び続ける他紙を非難した。インテリジェンサー紙は、彼は職権上の大統領でも暫定大統領でもない、彼は大統領the Presidentであり、副大統領職は空席であると主張した。同紙社説では、ジョン・タイラーには、大統領職が移譲されたのであり、大統領の権限と義務だけが移譲されたのではないと論じた。インテリジェンサー紙の憲法解釈によれば、職が移譲される副大統領と、大統領として行動するよう議会によって任命される高官との間には明確な差異がある。社説では、「無能力が解除されるか大統領が選出されるまで」という副詞節は、任命された高官の任期を制限するが、副大統領の任期には影響しない、と述べられている。インテリジェンサー紙は、これが、ジョン・タイラーが大統領であることの決定的な証拠であると考えていた。
新聞がタイラーの地位について何を言おうと、彼は大統領の職および称号に対する権利を主張した。4月9日、タイラーは彼が「就任演説」と呼ぶものを述べたが、その中で、彼は、彼に対する大統領の職の移譲について語った（注37：リチャードソン前掲書第4巻P.37。彼はウィリアム・ライブズに宛てた4月9日付けの手紙で書いた「我々の愛国的な故大統領の死によって、大統領という高位の職が私に移譲されました……」リオン・タイラー前掲書第2巻P.20。斜体は筆者）。再度、6月1日付けの議会教書において、彼は「私の大統領職への継承」について語った（注38：リチャードソン前掲書第4巻P.40）。タイラーは大統領権限を手放してから3年後、自分は合衆国大統領であったと再び強く主張したことがあった。それは、1848年10月16日のことで、国務省がタイラーに宛て発出した連絡について第11代ポーク政権のジェームズ・ブキャナン国務長官に苦情を申立てたものである。以下はその書簡の抜粋である。
「私は、私を前副大統領と呼んだことを看過するわけにはいきません。なぜなら、それが、貴省からの年次連絡で三度目のことであるからであり、そこに明らかな故意の目的を感じます。私は、それがあなたの許可なくしてはあり得ないことと確信しています…私は、特に貴省からの連絡における称号に関して申し上げますが、それは憲法が与えるものに拠らなければならない、という一点であります。それは、国民および全ての省において認知され、諸外国との公式の往復書簡および諸条約の批准並びに諸法令の承認において用いられているからであります」（注39：数日後タイラーは子息に、ブキャナンから「謝罪の」手紙を受け取ったと書いた。リオン・タイラー前掲書第2巻P.13注。斜体はタイラー本人）。
【第6代大統領でその後下院議員を務めていた】老ジョン・クインジー・アダムズは確かに、タイラーによる憲法の大統領継承条項の解釈に同意しなかった。アダムズは、1841年4月16日の日記に彼がタイラー氏を訪ねたことが記されている。同氏は「自身のことを合衆国大統領と称しており、正しい称号であるはずの大統領代行たる副大統領とは称していなかった」と。その後もアダムズは、副大統領に賦与されるのは大統領の権限と義務であって、大統領職ではないとして、事件全体が憲法違反であると言い続けた（注40：チャールズ・フランシス・アダムズ編「ジョン・クインジー・アダムズの回想録」（1874-1877年発行）第10巻PP.463-464。第10巻P.465および第12巻P.176も参照）。この時点で、ヘンリー・クレーはアダムズに同意していたようだ。1841年4月15日付けヘンリー・セントジョージ・タッカー宛ての手紙で、クレーは「タイラー副大統領」と述べ、彼の政権は摂政の性格を帯びるだろうと言った（注41：リオン・タイラー前掲書第2巻P.30）。しかし、クレーは6月1日までに、明らかに自身の意見を変えた。なぜなら、彼は上院においてタイラーに大統領の称号を与えることに賛成票を投じたからであった（注42：コングレショナル・グローブ第27議会第1会期P.5。彼の痛烈なタイラー弾劾演説において、クレーの伝記作家は、タイラーが常に大統領であることと、彼に簒奪者の烙印を押したことを否定している。カルビン・コルトン編「ヘンリー・クレーの著作集」（1904年発行）第2巻PP.355-356）。
タイラーの大統領就任は、議会で議論なしには受け入れられなかった。1841年5月31日に第27議会の特別会期が開催されたとき、バージニア州選出のヘンリー・A・ワイズ下院議員は、「合衆国大統領」を訪問し、両院が定足数に達したことを通知する議会委員会の設置を規定する決議案を提出した。ニューヨーク州選出のジョン・マキーオン下院議員は、決議文の「大統領」の文言を削除し、「現在大統領職を遂行中の副大統領」を挿入するという修正案を提出した。マキーオンは憲法の一節を読み上げ、大統領と、単なる大統領代行との間には明確な差異があることを示した。次に彼は、憲法制定会議での討議に言及し、この根拠に基づいて、タイラーは実際には大統領ではなく、上位職の権限と義務を遂行している副大統領に過ぎないと主張した。ワイズは、ジョン・タイラーが「憲法、選挙、そして神の御業によって自分は合衆国大統領である」と主張するだろうと応えた。そして、彼が大統領と言及した決議案は修正も分裂もなく可決された（注43：コングレショナル・グローブ第27議会第1会期PP.3-4。ヘンリー・A・ワイズ「連邦の70年間」（1881年発行）P.183。後にワイズは書いた「【第12代大統領】テーラー将軍が亡くなり、大統領職は【副大統領】フィルモア氏に移譲された」同書P.242（斜体は筆者））。
翌日の6月1日、上院でも同じ問題が生じた。上院では、オハイオ州選出の二人の上院議員、ウィリアム・アレンとベンジャミン・タッペンは、タイラーが大統領であることを否定した。アレンは、憲法の文体を引用し、タイラーを大統領として容認することは、大統領の職務不能の際の状況を複雑にする可能性がかなり高いと指摘した。タッペンも同様の推論を展開し、他の管轄権における慣習を引き合いに出した。彼は、現職の最高裁判所長官Chief Justice本人が不在の間、長官として職務を行う筆頭の最高裁判所判事the
senior Associate Justiceの事例を挙げ上院に注意喚起した。彼はまた、連隊において、上官が戦闘で負傷した場合に大佐として一時的に指揮を執る次位の将校の事例を挙げた。一方、ミシシッピ州選出のロバート・J・ウォーカー上院議員は、副大統領というものがないのであれば、議会から任命された高官が大統領を代行するだけであるが、上位の職はジョン・タイラーに移譲されたと論じ、タイラーの大統領としての地位を擁護するために立ち上がった。ウォーカーは、前述の大統領代行者の事例では、大統領代行者は任期の残りの期間を全うするのではなく、本来の大統領が選出されるまでの間のみ職務を遂行すると考えた。ウォーカーは、他方、副大統領が継承する事例では、副大統領は副大統領ではなくなり、残りの任期の間、大統領となると考えた。
アレン上院議員が再び登場し、大統領職の権限と義務が副大統領に移譲されたとき副大統領が大統領になるという前例を作ることの危険性を指摘した。彼は、大統領が一時的に職務を遂行できなくなったらどうなるのか尋ねた。大統領が回復したらどうなるのか？大統領が二人いることになるのか？大統領がある政党に属し、副大統領が別の政党に属していた場合の権力闘争を想像してほしい！と。ジョン・C・カルフーン上院議員は、今回の件は完全なる空席状態なので、議論は不要だと考えた。そして、上院は38票対8票でタイラーを大統領として承認した（注44：コングレショナル・グローブ第27議会第1会期PP.4-5）。このように、6月1日までに議会の両院によって、タイラーは合衆国大統領であると認められた（注45：サウスカロライナ州選出のウィリアム・C・プレストン上院議員は、明らかにこの決定に心底満足していなかった。なぜなら、彼は、大統領職が空席となった際、副大統領の権限と義務を規定するために更に立法が必要かどうかを調査するよう上院司法委員会に指示する決議案を提出していたからであった。結局、何の報告もなされなかった。上院日誌第27議会第2会期P.64）。
タッペンが上院で指摘したような同様の推論は、上院の臨時議長が副大統領になるいという結論を導き出すかもしれない（注46：もしそのような慣習が確立されていたら、大統領の権限と義務を継承する高官を任命する議会の権限は制限されていただろう。なぜなら、それは副大統領職が空席になることはめったにないことを意味するからである。この状況は、上院において、臨時議長選出の権限が、全く別の権限に変化するものになっただろう）。実際に、このことを主張する者がいた。元臨時議長のジョージ・ポインデクスターは、現職の臨時議長サミュエル・サザードに手紙を書き、ハリソン大統領の死去前のタイラーがそうであったように、彼（サザード）は副大統領であると主張した（注47：1841年5月28日付けボルティモア・アメリカン紙。この解釈は、憲法制定会議の委員だったロジャー・シャーマンによって50年前に提案された。彼は、第1議会で、副大統領が大統領職を引き継いだ場合、上院の臨時議長が副大統領職を引き継ぐべきであるという意見を表明した。アナルズ・オブ・コングレス第2会期【？】P.1912）。当時の主要な新聞のいくつかは同様の立場を採った（注48：1841年4月7日付けボストン・クーリエ紙。1841年4月7日付けナイルズ・ナショナル・レジスター紙）。しかし、サザードが上院臨時議長のままとすることに決定された（注49：ランバート前掲書（本書注17参照）PP.5-6。1841年4月6日付けニューヨーク・アメリカン紙。1841年4月7日付けマサチュセッツ・スパイ紙。1841年4月8日付けボストン・クーリエ紙。1841年4月15日付けデイリー・ナショナル・インテリジェンサー紙）。上院で議長を務める副大統領がいない場合には、臨時議長が議長を務めるが、上院議員のままで、上院で投票するというのが慣例となっている（注50：バーモント州選出のジョージ・F・エドマンズ上院議員は第21代アーサー政権の最後の2年間【1883-1885年】に臨時議長だったが、連邦議事堂の副大統領室を使い、「副大統領室」という表題のついた便箋で書簡を書いた。ジョージ・F・ハウ「チェスター・A･アーサー」（1934年発行）PP.249-250。しかし、エドマンズは上院での投票を控えるほどの役割を果たさなかった）。前述のホーウィルは、副大統領は継承によって大統領になることはないという自身の命題を敷衍する観点から、上院は副大統領ではなく仮議長を選ぶところ、それは副大統領職の空席が存しないのだから、副大統領を選ぶことはできないから、と述べている。ホーウィルによれば、副大統領に選出された人物は大統領の死後も副大統領であり続けるが、その職はもはや閑職ではなくなるので、誰かが上院議長としての職務を遂行しなければならない。これが、副大統領が大統領の権限を継承しても副大統領職に空席が生じないことのもう一つの証拠だとホーウィルは述べている（注51：ホーウィル前掲書PP.62-63）。実際、ホーウィルの議論は、副大統領職は空席とならないという決定的な証拠ではない。副大統領が選ばれないのは、単に憲法にその職の継承に関する規定がないからだという主張もあるかもしれない。
二人目の大統領が在任中亡くなったとき、副大統領や上院の臨時議長の地位について疑問を呈する者は誰もいなかった。第12代テーラー大統領は、1850年7月9日に亡くなった。大統領の死去の報は、内閣が「合衆国大統領」に宛てた通知によってフィルモア副大統領に届けられた。通知には閣僚の署名がなされたが、そこには再びトマス・ユーイングの名前があった。フィルモアは、翌日、議会両院合同会議の面前で大統領の宣誓を行った。今回も、トーニー最高裁判所長官ではなく、クランチ判事が宣誓を執り行った（注52：バール前掲書PP.318-319。リチャードソン前掲書第5巻PP51-52。ウィリアム・F・グリフィス「ミラード・フィルモア」（1915年発行）PP.53-54）。なぜトーニーがそうしなかったか記録は残っていない。ダニエル・ウエスブターが上院議員として、宣誓の執行を求める決議案を提出したことを思い出す者もいるかもしれない。議会の討論では、両院ともこの手続きに何の反対もなかった。ウエブスターの決議案が満場一致で採択されたのは意義深い（注53：コングレショナル・グローブ第31議会第1会期PP.1363-1366）。このようにタイラーの先例がフィルモアによって確立された。［3例目となる第17代ジョンソンの記述から以降は割愛］
（シルバ教授の掲載は以上）
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